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DUNE/デューン 砂の惑星のrensaurusのレビュー・感想・評価

DUNE/デューン 砂の惑星(2020年製作の映画)
4.7
アイデンティティの確立に向かう『序章』のみを丹精に描いた作品。物語的にはまだまだ不完全燃焼の一作ですが、私個人として、ヴィルヌーヴの作品に人間的な生理が近いという感覚もあり、いつまでも浸っていたい世界に没入できる最高の映像作品の一つです。

遠未来の見知らぬ惑星という『外的な世界への好奇心』と、スパイスによる精神世界の拡張という『内的な世界への好奇心』が同時に広がる映画体験。そこには、『神話のような普遍性』と『夢のような個人性』も共存している。

洗練されたデザイン、絵画のような画作り、大人びた色使い、大迫力の音響、文明の作り込みなど、世界観は新鮮かつ普遍性を帯びていて、神話のような空気感と巨大な世界が広がっている。

その大きく広がった世界は、未だ見ぬ皇帝によって支配されており、さらにはベネ・ゲセリットという女系組織によって計画されている。この上からの巨大で抑圧的な支配があるシステムと、抗い難く無力感のある主人公という構図が映画全体に通底しており、ヴィルヌーヴの作家性が煌めいている。支配的な母・ジェシカとポール、家父長制の影がある祖父とポール、巨大砂虫とポール。大きなものを前にたじろぎ、怖じける感覚。ポールは怯え、抗っている。

今作は、ポールが抗うことをやめ、システムと一体になる選択をするところで終わりに向かう。「生きる意味を考えるな。生きていることが大切。変化は立ち止まっていても理解できない。事の流れとともに動き、一体となり、共に流れるのだ。」というフレメンの言葉を受けて、握っていた手綱を手放す。導かれるようにフレメンと一体化していく。

この『一体化』は外的世界においても、内的世界においても核心を突いており、鮮烈なメッセージであると思う。

この映画の冒頭に、「夢は深淵からのメッセージである」という言葉が示される。夢は、いづれの意味でも、ある個人が見る主観的で個人的な幻想である。しかし、それらと一体になる事で、この膨大に広がる世界に進むべき道が示され、拓かれるのではないだろうか。

ゆったりした話運びであるにも関わらず、多く感じるものがある、奥深い作品だと思います。
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