Supernova

システム・クラッシャー/システム・クラッシャー 家に帰りたいのSupernovaのレビュー・感想・評価

4.7
"母"のもとへと帰ろうとする子供の狂気的なまでの帰巣本能。

The World is mine.

これがドキュメンタリーじゃないってのが信じられない。主演の女の子があまりにも上手すぎる。

本作はネグレクトの話だから、同じテーマの映画として『子宮に沈める』が思い浮かんだ。
『子宮に沈める』は餓死するまで放置される幼児の話で、本作は攻撃的で問題を起こすせいで施設をたらい回しにされる愛に飢えた放置子の話。

本作で厄介なのが、母親が普通にベニーの人生に存在するということ。また、ベニーの問題に心から向き合う気がまるでないということ。

虐待によって心に深い傷を負った少女の行動は、いつからか暴力的な癇癪へと発展。原因は明確にはわからないけど、虐待によって植え付けられたトラウマが発端であることは間違いない。
問題はそこから適切なケアを受けて育つことができたか。彼女には残念ながらそれがなかった。

一見すると、彼女のことを愛している母親も所詮は口だけ。明らかにベニーが男に対して過剰な嫌悪感を示しているにも関わらず、彼女の感情を無視する。そして暴力を振るわれていても介入しない。そんな環境で育てば、こうなってしまうのも無理もない。
そんな半端な愛情なら、いっそ愛情を受けずに育った方が幸せだったのかもしれない。それゆえに彼女に虚しい希望を抱かせてしまった。あまりに残酷すぎる現実を見せつけられて頭も胸も耐えられない。

だからこそどれだけ暴れようと離れずに付き添い続けてくれる福祉課の人々の温もりや、一見冷たい発言を繰り返しながらも諦めずに頑張ってくれる"先生"の姿は涙ぐましい。
ただ、本物の愛を知らないが故にそれを"愛"と履き違えてしまう彼女にはむしろ効果は真逆。変に希望を与えてしまってかえって癇癪を助長してしまう。何もかもが裏目に出る。本当に辛い。システム・クラッシャーとはそういう存在。

ベニーの視点から物語を見ることもできるし、彼女を支える福祉課の人々の視点からも物語を見ることができて本当に良くできてる。どちらの視点も理解できるから、辛さが2倍。

涙が止まらなかったし、エンドロール中に流れるニーナ・シモンの曲が傷口に塩塗り込んでから、塩酸流し込んでナイフで何度も何度も突き刺してくる。こんなのダメだよ。

今年の衝撃的な胸糞作品は『落下の解剖学』に軍配が上がると思っていたけど、甘かった。
映画としての評価は前者に軍配が上がるけど、本作の胸の締め付けられ具合と辛さは桁違い。

唯一不満を申すとすれば、女児の裸を晒しているということ。"アート"という大義名分のもと子供の裸体を晒すなんて言語道断。
ましてやこの時代に?
時代錯誤にも程がある。
気持ちが悪い。それだけが許せない。

こういう子供がいると分かった上で、自分が仮にこういった子と向き合うことになったら、果たして福祉課の彼らのように辛抱強くいられるだろうか。
世の中には、非行を繰り返す子供を見て、その裏に潜む深刻な問題を無視して悪童というレッテルを貼る大人が多すぎるように感じる。彼彼女の人生には愛が足りなかった。だから彼らは被害者であることを理解しなければならない。そういったことを絶対に忘れちゃいけないし、肝に銘じて生きてかないと。

これでもまだ語り足りない。この問題はあまりにも根が深い。
ただ、もし可能なのであればこの世で苦しむ子供が生まれない世の中を作っていきたい。
素晴らしい作品でした。
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