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赤い闇 スターリンの冷たい大地でのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

4.0
「『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(原題:Mr. Jones; Obywatel Jones; Ціна правди)2019。ポーランド・ウクライナ・イギリス合作。

「彼は殺された日に僕に何かを伝えようとしていた。理由はわかる?」
「ポールは頑固な人だった。まるで使徒パウロ。彼は背中を4発撃たれていた。そんな強盗あると思う?」
「強盗じゃないと思うんだね。彼は何を取材しようとしていたんだ?」
「…..ウクライナ」
「スターリンの金脈?でも記者は行けないんじゃ?」
「行こうとして撃たれたの。あなたはポールじゃない。国に帰って」

「これは何の肉だい?」
「兄さん」
「兄さんは漁師なの?」
「(黙って天を向く子供達)」

アドルフ・ヒトラーとヨーゼフ・ゲッペルスのインタビューに成功したイギリス人記者ガレス・ジョーンズは時の首相ロイド・ジョージの外交顧問。ソビエト連邦の経済的躍進の取材のためにモスクワを訪れる。1929年に起きた世界的大恐慌の時代、ソビエト連邦だけが大々的な躍進を世界中に宣伝していたからだ。

しかしモスクワに到着した彼は旧知の記者ポールが4日前に強盗に射殺されたと知らされる。

ソビエト政府に頼み込んでウクライナに入国したジョーンズは随行員(監視)をまいて一人ウクライナの本当の状況を秘密取材する。

当時ウクライナで起きていたのは「ホロドモール」と呼ばれた人為的な大飢饉。ウクライナの穀物を徴発しモスクワに送ることが行われておりウクライナ人は自分達の食糧を得ることができなかった。ソ連の5ヵ年計画が成功している様に見せかけるためにウクライナの穀物を奪いウクライナ人の集団絶滅を行った。死者の数は400万から1400万人と言われている。

スターリンはソ連の5ヵ年計画の成功の為にウクライナ人が死んでも問題ないと考えていた。

このソビエト・ロシアのウクライナにたいする態度とよく似たものがある。

中国・ロシア・大日本帝国が朝鮮半島を自分たちの好きな様に扱ってもいい場所と思っている態度だ。

2022年2月24日ロシアのプーチン大統領はウクライナの東部の州を独立国と承認しウクライナ大統領ゼレンスキーをナチ呼ばわりしてウクライナに侵攻した。満州国で起きた事とそっくりだ。

閑話休題

ジョーンズはソビエト政府に逮捕されるがニューヨーク・タイムズのモスクワ支局長デュランティが「ウクライナの飢饉を報道させない」という条件でソ連と交渉してジョーンズは釈放・帰国する。

デュランティはソ連の5ヵ年計画を報じてピューリッツァー賞を受けた大記者だ。しかしジョーンズはジョージ・オーウェルの励ましを得てウクライナの惨状を発表する。

そして内蒙古の満州国に取材に向かい29歳の生涯を終える。なぜ彼が若くして死んだかそれはエンドクレジットで明かされる。

デュランティの様な親ソ連知識人は沢山いた。彼等は労働者を低賃金で働かせ資本家だけが儲ける資本主義を打ち任せるのは共産主義だと信じていた。だからウクライナ人の犠牲も「大義の前のやむを得ない犠牲」と考えた。オーウェルも最初はそう考えていたが後にソ連を批判して「動物農場」「1984年」を発表した。

孤軍奮闘するジャーナリストは今でも世界のあちこちで政治の腐敗を追及して命を落としている。彼らに感謝し腐敗を許さない声を上げるのが私たち市民の役目だ。

私はウクライナで起きたホロドモールと圧力に屈しないでそれを報道したガレス・ジョーンズの事を忘れない。
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