最初は犯罪者・フリッツの生い立ちや、彼が殺人に手を染める経緯を描いた作品かと思っていた。しかし、序盤から救いようのないドスケベが無慈悲な殺人を繰り返していたので、彼の業を肯定することはできなかった。
だが、途中からフリッツだけの物語ではなく、彼が入り浸る酒場(ゴールデングローブ)の人々の群像劇だと意識し始めた。カウンターにいる常連のオヤジ達、年老いた娼婦達、はたまた、たまたま訪れた修道女にまでスポットを当てる。彼ら全員に物語があると匂わせる雰囲気がよかった。個人的には、あの大学生の男女の物語が気になる。
彼らはあーだこーだ話しているだけで、一切フリッツの闇には切り込んでこない。オヤジ達はフリッツが殺人を繰り返していることを知っているのか知らないのか…。
フリッツの周縁の人物を描くことで、フリッツの闇が社会の闇へと昇華されていく流れを感じた。