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屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカのmのレビュー・感想・評価

4.0
フリッツ・ホンカは、あの場あの選択から逃げることは出来なかったのかと酷く胸を痛めた。
エンドロールまで観て欲しい作品。

実在したフリッツ・ホンカさんという人間と、彼が実際に起こした殺人事件を描いている今作。
予告PVやジャケットから推測するにもっと汚い映画だと思ったけどとてもオシャレな画で驚いた。
美醜が存在する映像の中で、非人道的な行動が毎度起こるという鬼畜なストーリー。
けれど、共感してしまう作品だった。

醜い容姿のおかげで卑屈な性格になってしまったフリッツ・ホンカ(ヨナス・ダスラーさん)はアルコール中毒。
まともな仕事に就かず、呑んだくれ、しょぼくれたバーでしょぼくれた仲間たちと酒を飲み交わす日々。
訳ありな人間たちが集まるバー、あの店こそ深淵だなぁと感じた。

汚い店には悲しげで鬱屈とした人間が溢れ返っていた。
人生を諦めた、諦めざる得なかった人たちが足掻いた挙句たどり着いた場所。
あの店しか居場所がない人間たち。
もう既にそこで胸が押し潰されてしまった。
みんな輝いていた時代があっただろうに…。
孤独を癒されたいだけなのに…。
なにか癒えない傷を抱えている人たちを見て、そんな気持ちになってしまった。

フリッツ・ホンカもただのサイコキラー、快楽的に殺人を犯していく人間とは違う。
屋根裏部屋という場所、そこに貼られた沢山の女性の写真、機能不全を思わせる描写など、彼の心と体がしっかりと描かれている。
巣食ってくる孤独や羞恥心、やり場の無い気持ちなどが伝わってきた。

一度は酒を捨て、やり直そうと決心したがうまくいかない。
多分あのバーにいた人間たちみんなやり直そうと頑張った過去があり、挫折した過去もあるんだろうな。
「おかえり」と迎え入れてくれる場所は有難い。と思う反面、そこから更に抜け出せなくなるんだろうな…。
負の悪循環……。
あー…凄い重いなー。

またフリッツ・ホンカが狙っていた少女。
彼女とつるんでいた少年の未来が危ぶまれる、大丈夫かな。
新たなフリッツ・ホンカを生んでしまったような描写が、また悪循環が監督に殴られた気分。

フリッツ・ホンカやあの酒場にいた人間たちに感情移入していたら、エンドロールでやられた。
実際、フリッツ・ホンカさんが住んでいた部屋を映し、殺害現場を描いたものを見せられた。
彼がどんな思いで過ごしていたのかを、私なりに共感していたけれど、でも実際に行動していた人間だ、と痛感させられた。
非人道的なことが実際に行われていた、と思い知らされた。

他人事ではなく、こんな人生を歩んでしまうかもしれない怖さを感じた。

ストーリー : ★★★★☆
映像 : ★★★★☆(色遣いが可愛い)
設定 : ★★★☆☆
キャスト: ★★★☆☆(ヨナス・ダスラーさんに)
メッセージ性 : ★★★☆☆
感情移入・共感 : ★★★★☆
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