Asino

ペトルーニャに祝福をのAsinoのレビュー・感想・評価

ペトルーニャに祝福を(2019年製作の映画)
4.2
マケドニアの話なのだが、これはぜんぜん「特殊な宗教と伝統が残る国の話」なんかではない。
だいたい日本だっていまだに土俵に女性が上がるのは禁忌だったりするじゃない?根拠なんかなくただそれが「伝統」とされていて、誰も異を唱えないだけ。
この映画で彼女を非難し暴言を吐き暴力さえ振るう男たちは、映画を見ていると狂気の沙汰と思えるけど、「女は汚れてる」と言ってることにおいて相撲協会となんらかわりないと思う。まあ、べつに相撲なんかどうでもいいからみんな文句言わないだけ。
話がそれましたけど。
この映画の面白いところは、ペトルーニャフェミニズム的な意図を持って行動しているというわけでもなく、そういう意識の代表として存在しているキャラクター=テレビ局のレポーター(彼女が問題意識を持って報道していく姿勢も大したものだと思うけど)にすら反発するところかもしれない。
ペトルーニャはあくまでも、彼女を踏みにじる母親や面接の相手の男や司祭にたいして、自分が獲得したもの=(実力を発揮する場を不当に与えられないままになっている)彼女の能力そのもの、は、彼女が主張して当然のものだと言っているだけ。その象徴が「十字架」なのだと思う。

彼女が自分自身で努力して獲得したものを奪う権利は誰にもなく、権力もそれを認めているのになお、彼女を非難することになんの疑問も持たない。
そういう異様な不条理はこの世の中に満ちている。
ものすごく的確な直喩であり、だからあのラストが効いてくるのだと思う。実際のところ、彼女から彼女自身の能力そのものは誰も奪えないわけだから。(でもそれを使う機会を与えられないのは不当だし不幸でしかないわけだけど)
Asino

Asino