horahuki

All the Colors of the Dark(英題)のhorahukiのレビュー・感想・評価

4.3
最後まで晴れることのない“闇”

最強に不穏な状態が延々と続くマルチーノ製ジャーロ。現実と夢の境界がどんどんと崩れ去り、何がなんだかわからない悪夢のどん底に観客までも引き摺り込む。最後まで見てもその悪夢から脱せたような壮快感など全くなく、どんよりと嫌〜な余韻のままに強引に映画側から突き放される…まさに悪夢!!

久々のセルジオマルチーノ。幼い頃、目の前で母親を刺殺されてトラウマに…。最近、彼氏の運転する車が交通事故→流産してしまいトラウマに…。そんなダブルトラウマを抱えた精神ズタボロな主人公。ある日、母親を殺した青目の男に襲われる夢を見る。そして現実にもソイツが現れてずっと付け狙ってくる…。これは現実なのか?幻なのか?…と思い悩み、ただでさえズタボロな精神が更に追い詰められていく地獄のような展開。

仕事もなく友人もおらず同居の彼氏も仕事で留守がち。そんな孤独な主人公の内面を『反撥』の如くシュールレアリスティックに描いていく作風。しかも悪魔崇拝者集団まで登場。『ローズマリーの赤ちゃん』のような周りの全てが怪しく見えてくるというポランスキーセット。誰が現実の存在なのかも怪しい。現実だったとしても誰が味方なのかも怪しい。そんな不信の二重構造が堪らない!

焦がしてしまった卵料理を何の躊躇もなくアツアツのまま窓からポイ〜してたけど、豪快過ぎて笑った🤣ゴミ箱じゃないんだ…。トラウマで狂ってたから?それかコレがイタリア(舞台はイギリス)の日常なの?

以下ネタバレ気味です!



不穏な虫や鳥の鳴き声の中で次第に暮れていく風景から嫌〜な“夜”への導入を意識させるファーストカット、更にはソフトフォーカスで全編にわたる「夢」感を強調している。性的欲求(ナイフで何度も刺される夢)に取り憑かれつつも、関係破綻を嫌って彼氏に相談せずに抱え込む主人公は、流産の直接の原因を作った彼氏への不信をも抱いているように見受けられ、その相反する感情の狭間で揺れ動いているように見える。

物語的にも精神科医vs製薬会社の彼氏といった感じで、精神分析による治療を進める医者と、独自のビタミン剤での治療を進める彼氏が互いを批判し合って敵対視している。そして窓から見下ろす彼氏は去っていくけど、ナイフを持った男はやってくる。そういった描写からも『Night of the Eagle』と同様な男権的な支配からの脱却か否かで揺れているように感じた。

だからこそダリ×ヒッチコック『白い恐怖』やフルチ『幻想殺人』への挑戦のような強烈な冒頭の悪夢シーンでは「母親」という存在を嫌悪しているようにも見えてくるし、子ども=人形=キモい婆のビジュアルからも子どもにも同様な考えがあるように思えてくる。

実際に、主人公は過去のことを気にするばかりで、流産したことに対して異常なほど執着が見られず、彼氏との結婚も躊躇している。この母親との同一化を恐れるのは、のちの『The Perfume of the Lady in Black』に引き継がれてる。じゃあさっさと別れたら良いじゃんってなるけど、カルト教祖と彼氏のマッチカットによって、欲望が別れを留めているのだということが示唆されてて、キモくて良い!そんで本人も全くそのことに気づかず、自己混濁したまま迎えるラストと恐らく「母親化」するのだろうな〜と思わせるフリーズフレームでのエンドが素晴らしい!
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