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風をつかまえた少年のNMのレビュー・感想・評価

風をつかまえた少年(2019年製作の映画)
3.8
実話がモデル。ドキュメンタリーでもドラマでもない良いバランス。
アフリカで苦しい日々を送る人たちが実際どんな暮らしをしているのか垣間見ることができる作品。
苦しいとき人々がどうなるか。そんなときでも協力しあい知恵を使うことができるか。

一面ベージュ色の景色。
この土地の農業は天気と祈りのみに頼っている。
高度な技術も農具もない。乾季はそもそも農業ができない。
この年は干ばつが続き、苦しくて貴重な財産である数少ない木まで売ってしまう者も続いた(木を切れば土地も痩せ洪水の被害も増す)。村は分裂していく。
さらにアメリカのテロのせいで世界中景気が悪い。
政策は頼りにできず、不平を言えば政府のSPたちにリンチされる。

主人公の少年ウィリアム。
手先が器用で雑用、特に大事な情報源であり貴重な娯楽でもあるラジオ修理を町のみんなから頼まれるほどだった。配線を直したり、電池切れを工夫で補ってみせたり。

お金のないその年、ちょうど学校へあがる年齢になったが、実は学費を全額払えておらずその目処も立っていない。
理科が好きで勉強をしたいが、仕事を手伝わねばならないし、灯油がないので家のランプは使わせてもらえず日が暮れれば勉強はできない。
それに実は学費を前金しか払えておらず、全額払える目処はない。
姉も大学に行ける実力があるが経済的に進めないまま。
仕事を手伝うため学校を辞めてしまう子が増え、教師も減り、学校の存続さえ不透明。

ある日自転車のライトの仕組み(ダイナモ)を知ったウィリアム。このシステムを使って村に何かエネルギーをもたらせないか。
安定して農業ができ、学校に通え、毎日充分な食事がある生活がしたい。

やがて暴動が起き、家の食料の備蓄はほとんどなくなった。もはや死を待っているに等しい。
希望を失い、家族どうしも心が通わず、視野が狭くなりますます状況が悪化する。

姉はウィリアムの担任教師と駆け落ちしどこかへ消えてしまった。泣き崩れる家族。
母を先頭に学校に抗議に行った一家。あくまで冷静に。
話し合いの結果ウィリアムが図書館を使う許可を得た。
この状況でもウィリアムは絶望せずどうしたら状況を良くできるか前向きに考えている。

風力発電の存在を知り、廃材を集めて実験してみると成功。
しかし父に見せると逆ギレし、勉強などやめて開墾を手伝えと怒鳴られた。
もちろん痩せた土地を耕したところで希望は薄い。

村人の多くは、我慢する、祈る、もっと耕す、村を出る、というのが大半。
残った者も飢えて次々と死んでいった。

母は従順で賢く忍耐強い。家族のためなら何でもしてきた。娘を大学に行かせたかったがそれも叶わず家出までさせてしまった。弟の教育まで難しい。夫は頼りない。すべてを捨てて手に入れたはずの家族が崩壊寸前。
その妻に静かに抗議されると、父も涙しついに意地を張るのをやめた。

家族と残った者たちで強力し、今度は中型の風力発電装置を作ってみると成功。
ただ羽根が回ったのではなく、苦難の末の一歩だから感動的。
ポンプを作動させ、流しそうめんシステムで畑に水を流していく。

装置を複数作り無事畑は育ち、茶色かった町に緑色が現れた。
父はウィリアムの功績を認め、肩を抱き、進学を薦める。

正直、観る前は面白いのかどうか不安だったが観てよかった。
示唆が多く、モチベーションをもらえた。たまにはこういうまっすぐな映画を観るべき。
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