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サイダーのように言葉が湧き上がるのa6jirouのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

 コンプレックスを抱えた少年少女の一夏をめめぐる物語。人前で話すことが苦手な「チェリー」と矯正中の大きな前歯を隠すためにマスクをつける「スマイル」。ショッピングモールで出逢ってからSNSを通じて距離を縮めていく。

 タイトルに惹かれて去年から楽しみにしていた映画。公開日に見てきました。

 主人公チェリーがTwitterのようなアプリで俳句を呟いていたり、ヒロインのスマイルがライブ配信をしているなど現代要素が多く含まれていたので若者世代は見ていてわかりやすいし、世界観に没入できると思う。イシグロ監督が音楽に拘った、と言っていたように劇伴はシーンに合致していて気持ちがいい。特にラストシーンのYAMAZAKURAの節に合わせてチェリーが俳句を叫ぶシーンはある種のラップのようになっていて面白い。美術面も背景がかなり遊ばれていて今までのアニメ映画とは一線違えたものになっている。俳句と言う一見、文字の羅列で地味になりがちなものをダギングによって視覚的に画面に散らばせているので、モノローグがなくてもチェリーが今どのような感情なのかが分かる。俳句もこれまた秀逸で、想像しているような格式ばった難しいものではなかった。「フライングめた」とか出てきた瞬間ちょっと笑った。これくらいライトな方が若い世代にはいいのかもしれない。新たな時代の俳句を感じた。自分が馬鹿すぎるだけかもだがタイトルの「サイダーのように言葉が湧き上がる」これって俳句になっているんだ、って気づいた時はちょっと鳥肌立った。チェリーがその言葉をスマホに打つ一連のシーンは見ていて気持ちが良いテンポ感だった。やっぱり5・7・5のリズムは日本人に遺伝子レベルで刷り込まれてる気がする。「声に出して伝わる情景もある」作中のセリフにあるように目で見て声で聞いて、2通りの楽しさがあった。


 登場人物が多い割にはキャラの掘り下げが浅く、共感し辛い。チェリーでさえなぜ人前で話すことが苦手なのか、を描いておらず作中でもスマイルの姉が言っていた、ただの「コミュ症」になってしまっている。スマイルは思春期に突入し、今までチャームポイントとして胸を張っていた容姿がある日突然受け入れられなくなった、ということなのだろうがここはまぁ共感できなくもない。
 他にも主人公の友達のジャパンやビーバーなど個性的なキャラが目立つ割にそのキャラのことをよく知れないので「なんだったんだ?」で終わってしまう。コンプレックスを抱いていることを強調するのならばいかにしてそれを乗り越えたのか、がもう少し見たかった。会って2回目の女の子に「可愛いと思う。チェリーくんの声」と言われただけでずっと抱えていたコンプレックスを乗り越えられるものなのか。スマイルに関しては恋した男性に「隠したその歯 僕はすき」とか公衆の面前で叫ばれたら逆に恥ずかしくなるんじゃないのか。ラストシーンの誰もチェリーに目もくれず花火見ているシーンとかも感動はしたけど違和感はあった。
 
 しかし前述した「ただのコミュ症」のチェリーだが、そのような若者は今、多いのではないか。特に理由もなく他人と接することから逃げている、そんな節も分からなくもない。ネットというお互いに顔も知らない同士なら気軽にコミュニケーションが取れる、自分の気持ちを素直に言える。今の時代だからこそ刺さるメッセージがあったように感じた。

 全体的には爽やかな青春映画になっているのでデートとかにはいいかも。実際両隣カップルですげー気まずかったし。パンフレットがレコード型なのがマジでオシャレ。おすすめな映画です。

感想の一句

「映画前 コーラ滴り 鬱模様」



 
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