熊犬

サイダーのように言葉が湧き上がるの熊犬のレビュー・感想・評価

4.2
【"ビール"は夏の季語らしい】

人と話すのが苦手でいつもヘッドホンをしてコミュニケーションを遮断する俳句好きな少年、チェリー。チャームポイントの前歯をコンプレックスに感じ始め、矯正中の為いつもマスクを外さないライブ配信者の少女、スマイル。
あるキッカケで知り合った二人は、バイト先で出会ったフジヤマという老人がとあるレコードを探している事を知り、力になりたいと捜索を手伝う事にする。
徐々に距離が近づく二人の関係をチェリーの自由な俳句が彩る、夏のポップな青春グラフィティ…
…な映画。

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夏の終わりに夏っぽい映画を。

この映画、単純な青春モノの皮をかぶった、かなり高度な映画な気がしてる。SNSやグラフィティという、いわゆる若い文化。そこに合わさるのは伝統のある俳句や、懐かしい空気感があるシティポップやレコード(まあシティポップやレコードは今や新しくウケているところでもあるけど)。この新旧をバランス良く取り込み、ポップかつ綺麗な映像で魅せる。単純にこの構図が凄い良いと思う。コンセプトの所で素晴らしい。

昔、枡野浩一の"ショートソング"を読んだ時にも同じ感覚を覚えたんだけど(あっちは短歌)、俳句も思ったより自由なんだよね。ルールの不自由さにもちゃんと遊びがあって、でも多少なりともルールがあるからこそクリエイティブなものが出来るという。面白いなあ、純粋にそう思ってしまったから製作者の思う壺なんだろうな。なんだろう…こういう言葉の操り方が出来るなら、面白そうだと思える。それ程に自由な俳句が沢山出てきて、共感したり、気持ちや画を想像したり出来るのが凄い。映像を観る「映画」に、言葉としての「俳句」が更に色を足してるみたいな。んー…しみじみと、良い。

二人がコンプレックスを乗り越える話として捉えると、これもまた良い。二人のキーアイテム(ヘッドフォン、マスク)はコンプレックスの象徴になってるんだけど、これを起点に観ると二人のコンプレックスに対する動きがよく分かる。上手いなあ!これにプラスして、チェリーは最初SNS等文字でなら良いのに、人前で自分の俳句を声に出して詠む事を恥ずかしがっていたのに、それを踏まえての最後…素晴らしいねほんと。

かなり練り込まれたアニメ作品で、めちゃくちゃ良かった。

■本日のビール『Son of the Smith Original』
醸造所:Son of the Smith(日本 / 長野)
サノバスミス醸造所が作るのはビールじゃないけど共通点が多くビールと共に盛り上がってきた醸造酒の一つ、ハードサイダー(リンゴの醸造酒)。やっぱりここは、サイダー繋がりで。Originalは最初から作っているレギュラーサイダーで、酸味寄りの甘酸っぱさが最高に美味いやつ。
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