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フリーソロのmovieJackのレビュー・感想・評価

フリーソロ(2018年製作の映画)
4.5
学生時代
スキーに行けるとの軽い気持ちで
一時ワンダーフォーゲル部に所属し
夏場は北アルプスでテント泊での縦走や六甲山等でロッククライミングも少しだけ経験し(かじっただけですが…)
山好きの方々の雰囲気は何となく知っており
滑落して亡くなられたと思われる仲間の遺体を交代で担ぎ下山するグループを見掛けることもあった

しかし今作主人公のアレックス・オノルドは全く次元が違う世界的クライマーで
他のクライマー達も同じかそれ以上のトレーニングをしても
決して誰も到達できない高みに到達しており神の領域に近いとさえ感じ
若くしてこのような人物は初めて見たかもしれず
自分の資質に完全にマッチしたスポーツや仕事に巡り会える人は人類でもほんの一握りで
最高な資質を持ちながらそれを一生経験することもない人も居る筈だが
生死を掛ける物に巡り会ってしまうとなると幸せか不幸かは紙一重

今まで誰一人成功したことのない(もしかして誰もやろうとは思わなかった…)
970mものほぼ垂直の岩壁を
安全具や命綱等を一切使わず生身の身体だけで登りきる
それも途中で区切るのではなく
下から上まで一気にという信じがたい挑戦に密着するドキュメンタリー

一瞬でも気を抜いたり手足が少しでも滑ると当然転落死となり
自分のミス以外にも
手足をかけている岩が割れたり崩れる危険性も絶対に無いとは言えず
クライミング中に岩壁が崩れ
電話ボックス位の岩と共に滑落死的な話は昔よく聞いた記憶がある

アレックス・オノルド(31才)
自然体で飄々とし
何事にもおっとり好きなことを楽しんでいるだけのような雰囲気で
まるで子供のまま大きくなったような好青年(鍛えあげた鋼の肉体には驚愕ですが)
街中では世界的な偉業を達成する登山家には到底見えないが
命を懸けることに一切の躊躇はなく
「命を懸けて行う達成感がないと生きている意味がない…」的な事を
私が「晩酌にはビールがないと…」と言う感じで当たり前の様に話す(泣)

最終的には一切サポートを受けない孤独な単独行だが
900m以上の岩壁に対し
下から見上てルートを想像し大体この辺かな…的に
行き当たりばったりで登るなんて自殺行為をする訳ではなく
チャレンジするその日までは永遠と下見と準備を行い
信頼できるパートナーと共に命綱を繋げコース検討や危険箇所の攻略方を繰返し繰返し練習するがそのパートナーも当然世界トップレベルのクライマーだが
手を滑らせ宙吊りなることもあり(もし本番なら即死)
攻略方を修得すれば自信がつくだろうが
日毎に膨れる不安も計り知れない

また撮影するスタッフ達も全員高レベルのクライマー達が集結し
ロープで宙吊り状態で撮影し
見たこともない臨場感のある影像には息苦しさを感じつつため息しかでず
彼がツルツルした岩肌の
数ミリの段差に手足を掛け軽々登っていくシーンが多く
なんだその辺は簡単なんだね…と思えてしまうのは誠に残念だが
私なら登るどころかその場で留まることも出来ないだろうし
カメラマン達が
恐すぎて見ていられない…
もう絶対に彼との仕事は受けない…と目を背けながら撮影しており
経験豊かなクライマー達のその反応が
このチャレンジの無謀さと世界的な快挙であることの全てが伝わると共に
このチームが全員で協力しなければ
このチャレンジも今作品も出来なかったと思われ
自分には出来ない偉業を達成させてあげたいと夢を託しサポートするスタッフと
サポートを受け極限の精神状態を維持・緩和しているような主人公
お互いの信頼関係は
孤独な単独行動では絶対に成し遂げることが出来ない仲間との繋がりが感じられた

そして度々登場する交際中の彼女については
彼のトークショーかサイン会で
彼女から電話番号を渡したのがキッカケって
富と名声を手にしたウブな彼が
ミーハーでチャラいファンにまんまと
大丈夫なの…と親目線で観ていたが
終盤では彼女が支えになっている感も伝わりお似合いだと感じられたが
古い人間としては昔の唄「山男の歌」が頭にうかぶ
「娘さんよく聞けよ 山男にゃ惚れるなよ~♪」(若い人は知らないだろう…泣)
私的イメージでは
山好きは家族を置きざりに数ヶ月間は山から帰らず街には住めないばかりか
遭難や滑落で亡くなる可能性が高いから好きになれば必ず後悔する…という感じで

いつか
ニュース速報で
「映画『フリーソロ』主人公が滑落死」等の文字が流れることが心配でならず
いつかはそうなるだろうと思っていたよ…等とは口にしたくないものです
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