ゆ

五億円のじんせいのゆのネタバレレビュー・内容・結末

五億円のじんせい(2019年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

主人公は高校生。幼い頃に心臓の病を患ったが、母や近所の住民による決死の募金活動の末なんとか手術費用を調達し命を救われる。かかった費用は五億円。主人公はそれを負い目にして、自分を救ってくれた皆の期待通りに生きることに辟易していた。
ある日SNSで死にたいと呟く主人公にメッセージが届く。「死にたいなら五億円返してから死ね」。主人公はそのメッセージを読み家出を決意。ホームレスとの出会いやリフレでのバイト、詐欺の仕事などを経て自分自身を知り成長していく。

この映画の主人公はとにかく真っ直ぐだ。土砂降りでお金がなくてもコンビニの傘を盗まないし、詐欺バイトに至っては罪悪感でお金を回収することができず、詐欺であることを喋ってしまう始末。登場人物の愚直さは時に鑑賞者を苛立たせることがあるが、この映画の主人公は嫌悪感が全くなく、観ていてスッキリする感じがした。

仕事を通して人の汚さや世の中の怖さに直面する反面、労働の楽しさや対価を貰うことの喜びを知ることで主人公は成長していく。
特に印象に残ったのは序盤に出会ったホームレスとの関係だ。家出したばかりで泊まる場所がない主人公は道端で傘をくれたホームレスの寝床で一晩世話になるのだが、次の日通帳から全財産が引き抜かれてるのを知り、一晩一緒にいたホームレスに対して疑いをかけてしまう。結局お金は戻らずに話は進むのだが、物語の後半で貯金を抜いたのが母親であったことを知ることになる。主人公はホームレスに謝罪をするために会いにいくのだが、時すでに遅し。ホームレスはすでに他界していた。

人生に後悔はつきものだ。気づいた時には多くの物事が手遅れになっていて、人は皆心のどこかに喪失感を抱えてその後の人生を生きていくことになる。
劇中に登場する言葉にこんなものがある。
「旅行は行きたい場所に行くことで、旅は此処ではない何処かへ行くということ」
主人公は自分を空っぽだと思っていた。その思いが主人公をあてのない旅へと駆り出した。
喪失することで人は大人になり、自分の大事なものに気づいていく。主人公が今まで出会った人たちと再会し彼らの人生を写真に収めていくエンディングはとても爽快で面白く、同時にこの物語が終わってしまうことにとても寂しさを感じた。

映画『五億円のじんせい』は、どんな人にでも薦められる19年度トップクラスの邦画だ。夏公開の映画のため10月28日現在全国で4館程度しか上映していないが、まだ観てない人は駆け込み鑑賞をオススメする。
ゆ