にしやん

トールキン 旅のはじまりのにしやんのレビュー・感想・評価

トールキン 旅のはじまり(2019年製作の映画)
3.7
「ホビットの冒険」「指輪物語」「シルマリルの物語」を書いた大作家J.R.R.トールキンの少年期から青年期の話を描く青春伝記映画や。

まず、人間トールキンやトールキン作品への愛情や、ピーター・ジャクソンの映画へのリスペクトが感じられるな。こういうんは観てて気持ちええもんや。​ちょこちょこ「ロード・オブ・ザ・リング」のワンシーンをイメージさせるカットが入ってたんも楽しいわ。サムみたいな塹壕での忠実な従卒とか、エオウィンみたいに自由に焦がれるエディスやとか、メリーやピピンみたいに絆を誓い合う仲間とか、たぶん原作を相当読み込んだ監督が、原作をイメージして作った創作部分も相当あんのやろなあと。わしはトールキン作品とかそこまで詳しないから分からんとこもあんねんけど、ファンには堪らんのかもな。それと、映画全体として、台詞や言葉の一つ一つがキレイやし、落ち着いた色彩の風景、美しい音楽、それぞれのバランスも良かったわ。

実はこの映画、題材になってる時期がトールキンの少年期から青年期に絞られてるさかい、イギリスの上流学園もんの青春映画としても充分楽しめる。実際わしはそっちの側面のほうが正直おもろかった。名門校で出会った「T.C.B.S.」のメンバーが個性があって魅力的や。芸術方面に関心のある若者が集ってお互いの作品を披露して意見を交換したり、時には誰かが困難にぶち当たっても仲間が力になったりと、なかなかキレイな青春の話やったわ。それに4人とも少年期と青年期とで演じた役者の印象が殆ど同じやったもグッドや。こういうのがちゃんと出来てへん映画意外に多いもんな。

あと、印象に残ったんは、T.C.B.S.のメンバーと音楽の話で盛り上がりかけたエディスをトールキンが強引に連れ帰った後のシーン。エディスの感情が爆発してたけど、彼女の悲しみの深さが何とも印象的やったわ。その後の流れの劇場の舞台裏のシーンもええわ。ここもなかなかロマンチックでホッコリしてもたな。

ドラマとしては、友情に恵まれ、恋もして、第一次世界大戦で生死を彷徨うっちゅうことで、十分見応えがある作品やねんけど、何がどうなって「指輪物語」に繋がっていくんが、はっきり描かれてへんのがこの映画の問題点やな。映画の冒頭から第一次世界大戦の塹壕シーンから始まり、戦争での悲惨な体験が「指輪物語」に影響を与えているということは否定せえへんけど、戦場で火炎放射器がドラゴンの炎に見えたり、兵士が騎士に見えたりするファンタジックなシーンなんかは、演出的には嫌いやないねんけど、ちょっと後付けっぽいし、それが作品に繋がったという説明は正直無理ある気ぃするわ。

「なんでこんな素晴らしい作品が作れたんか?」という問いに対して、ええ友達いました、恋もしました、言語学も詳しいです、戦争でエライ目に遭いましただけでは全然答えになってへんやろ。みんなが納得できるような、彼にしかない壮絶な経験やら背景やらエピソードが無いっちゅうんは伝記もんとしてはどうなんやろな。この映画観ただけやったら、単に彼に才能ありましたしか無いんとちゃうか。それに、最後の最後まで小説書き始めへんし、「ホビットの冒険」の一行書いて映画終いやもんな。

20世紀初頭のイギリスを舞台にした青春映画としてはそこそこおもろかったけど、トールキンの伝記映画としては少々不満が残るな。アメリカでは興行的には大コケやったみたいやけど、その辺に理由があるんとちゃう?同じニコラス・ホルトが主演の小説家の伝記映画としては「サリンジャー」のほうが出来はちょっと上かもな。そんな感じやわ。
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