芦塚あきひろ

HiGH&LOW THE WORSTの芦塚あきひろのレビュー・感想・評価

HiGH&LOW THE WORST(2019年製作の映画)
4.4
映画館で観られて良かった。

聞くところによると、このHiGH&LOWシリーズでは、演じる俳優自身のアイディアを役柄やキャラクター造型に反映させることが多いらしい。
今作のキャラクターでは、メガネと眼帯を付けたり外したりする、前田公輝演じる轟さんと、葵揚(あおいよう)扮する、ストーカーこと鳳仙四天王の一角、沢村が好きだった。

轟くんは、あの荒廃を超えてアーティスティックですらある鬼邪高校で、全然不良っぽくないくせに死ぬほど好戦的で、ストイックに身体を鍛えているというキャラクターがまず好きだ。きちんと身体を鍛えている描写がある人、あの作品の中ではわりと希少だし、それに実際のアクションでも、身体の軸がブレない、正統派のストロングスタイル。で、超強い。かっこいい。眼帯も似合う。

沢村は、「ストーカーだよ!」のセリフが愉快かつかっこいいし、優しいし、顔は高良健吾をグッとワイルドにした感じで素敵でした。
ラストのオマケ的な展開と、それ見た佐田のリアクションには微笑まずにはいられなかった。


村山じゃなくて村上さんは、出てくるとワクワクする。演じている山田裕貴は、他の役や舞台でも観てみたいような、とても素敵な俳優だ。

かつてのシリーズで描かれた、SWORD地区の対立と、それを乗り越えて連合を組んで、九龍会との闘いに発展していくストーリーを、そのまま鬼邪高内の派閥争いから鳳仙との抗争、2校が共闘してあのカラフルなジャンキー軍団との闘いへ、という構図へ、効率よく再構成して見やすくしている。
これまでの『HiGH&LOW』シリーズを見たことがない人にも十分楽しめるんじゃないかという作りになっていた。

格闘シーンも、最初の轟と村上さんの学内最強決定戦のタイマンからとても良かった。周りで囲んでいる他の生徒たちをうまく使った展開は新鮮だった。
大きく2回ある、集団の格闘シーンもすごかった。銃火器を使わないアクション格闘シーンで、あそこまで大規模かつハイレベルなものは、他に見たことがないかもしれない。本当にすごいと思う。落下のスタントは迫力がある。豪快だけどとても丁寧に作っているはずだ。スタントマンの皆さんには頭が下がります。

観客は女性が多くて、隣の隣に座った女の人は、明らかに何回も鑑賞している雰囲気で、ところどころで楽しそうに笑っていた。あんなに野蛮な話なのに、観客は女性中心という空間が不思議だ。観客席を眺めていたくもなる、珍しい映画館体験だった。

一応不満も書いておくと、日常会話というか人物の関係性を示していくアクション以外のシーンは、弛緩したコメディか、なんか友情とかを良さげに語るようなシーンになっている。
他の映画だと、このゆるい脚本とベタなギャグシーンは見ていてなかなか辛い、もしくは腹立たしくなるものだが、アクションとアクションの間の箸休めかつ関係性の説明シーンということで、なんだか忖度して楽しめる気分になる。これはほとんどHiGH&LOWシリーズ特有の気分だ。でもまあ、もう少し良くしてほしいとは、いつも思う。
ただ、四天王、小沢仁志には笑った。

全体としてHiGH&LOWの新作ということで、十ニ分に楽しめた。このシリーズを見る前の印象は、今時のイケメン博覧会の絵空事不良ドラマだろ勘弁して下さいよ僕もそういうものに時間を割くほど暇じゃないんですよくらいの、はっきりとナメていた姿勢だったので、こんなに好感を持つとは思わなかった。あの文字通り身体を張っていて、最大限の技術と工夫が詰め込まれたアクションシーンを見られただけで、ナメてたことを大きな声で謝りたい気持ちになる。

以下、もう少し良かったところを挙げておく。

今作の、車の上やハシゴや組体操的な人垣を使ったアクションも、ヨコだけじゃなくてタテを使った演出として面白い。

衣装も、学生服という大枠ができたことで逆に工夫がしやすくなったのか、これまでのシリーズ作品より洗練された印象だった。ケンカばっかりしてる、大人も女性もほとんど登場しない劇世界と、学校と地元という単位の設定が、学ランの様々な着こなしというディテールと統一感が出てた気がする。

美術も、あの希望だか絶望だかの団地のスラム具合とか笑ってしまうけど、しっかり世界観を支える作り込みがされていて、荒み切ってるけど豪華絢爛という、見ていて楽しいセットになっている。あんなふうに廃車が積み重なっている風景、世界のどこかに実在しうるのだろうか。

続編はやるんだろうか。作ってくれたら今度は他の映画に浮気せず、真っ先に劇場で観たいと思う。いや、面白かった。
芦塚あきひろ

芦塚あきひろ