タイレンジャー

ブルータル・ジャスティスのタイレンジャーのレビュー・感想・評価

ブルータル・ジャスティス(2018年製作の映画)
3.0
スローフード、スローライフの流れを汲んだ【スロームービー】なるものがあるとしたら、本作のような映画を指すのではと思います。

時間の制約にとらわれず、ゆっくりと、丹念に、ある意味では緩慢とも言える時間の使い方にこそ本作の価値があるからです。

上映時間は159分と、この時点ですでに長いのですが、実際に鑑賞してみると体感上映時間はその倍くらいだと思いました。僕は2回も寝落ちしてしまった為、完走するまで3日間を要したほどです。

映画には「事件など」をきかっけに物語が転がりだすターニングポイントのようなものがありますが、それが本作においてはだいたい90分過ぎになるまで起こりません。それくらい本作の展開は遅く、一見不要と思えるような場面が長いし、多いのです。

ほぼ何も起こらない最初の90分間で何を描いているのかと言うと、その多くは登場人物の背景や行動原理です。

主人公にあたるベテラン刑事(メルギブ)だけでなく、その相棒刑事や、後に交差するであろう出所したてのチンピラに至るまで、彼らの性格、家族構成、財政状況といった要素が実に淡々と描かれます。

なぜこんなに人物の背景描写に時間を割くのかと言うと、本作は情報の見せ方が映画よりも小説に近いからだと思いました。

もちろんすべての小説がそうではないのですが、小説は映画よりも「時間」の制約が無いぶん、登場人物の背景を丹念に書き込むことができます。

ただ、小説の情報量をそのまま映画にしていたら必然的に上映時間が長くなってしまうので、普通はそういう要素をカットするんですが、本作は敢えて小説のような映画作りをしているんだなぁなんて思った次第です。

だから、ドリップコーヒーの一滴一滴がポタポタ落ちる様子を眺めながら香りを楽しむような心の余裕がないと観るのがツライかもしれませんねぇ。