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アポロ 11 完全版のQTakaのレビュー・感想・評価

アポロ 11 完全版(2019年製作の映画)
4.0
1969年7月、人類はみな夜空を眺めていた。
そして、月を指差していた。
人類が、最も遠くへたどり着いた頃だった。
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その頃、子供の私にも、“アポロ”は日常だった。
それは、宇宙船を示す言葉であったことも、お菓子の名前で有ったこともあった。
まだ子供だった私には、“月”は当たり前の存在だった。
そこは、人が降り立った場所なのだから。
いろいろな絵本があったのを思い出す。
そこには、月面を歩いた宇宙飛行士の姿が描かれていた。
彼らを月へ運んだ“サターンロケット”が有った。
飛び出す絵本には、月着陸船“イーグル”が有った。
すべては、on timeでそこに有った出来事だった。
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このドキュメンタリーには、半世紀前のアメリカが写っている。
Apollo 11の打ち上げシーン。
集まった観衆たちの姿。
60年代のアメリカの姿に、懐かしさを感じる。
(この時代のアメリカは、TVドラマで日本のお茶の間にもお馴染みだった)
彼らの姿には、同時期に宇宙開発競争を競っていたソ連との戦いを感じさせる。
宇宙開発といえども、それは形を変えた戦争だったのだ。
としてみると、あのビーチに集まった観衆は、まさに戦場に集まった米国民とも言える。
ビール片手に、バーベキューなんだけどね。
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管制塔とApollo 11の通信が生の音声として使われている。
飛行中に起こったいくつかのトラブルもそのまま手に取るようにわかる。
飛行士の生体データのテレメトリーが途絶えた時に、飛行士から「息が止まったら連絡するよ」と報告され、管制室に笑いが起こる。
月着陸船の月面への降下時に、コンピュータが予期せぬアラートを発した様子もそのまま記録されていた。
月を周回する間、着陸船の降下、上昇時に窓越しに映し出された月面の様子が本当に素晴らしい。
まるっきりの別世界である。
この映像は、その別世界に人類が行って来たことを実感させてくれる。
もちろん、月面活動は、さらに格別で、息を飲む映像だ。
それぞれ、今までにも見たことのある映像も多くあるのだが、映画館のスクリーンは別の体験を与えてくれる。
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宇宙開発の歴史は、西側・東側、あるいは中国、日本、インドなどを含めて、人類の歴史である。
このドキュメンタリーがそうであるように、あるいは他の事実をもとにした映画も含めて、こうしてその記録を映像表現する試みは多く行われて来た。
特に、ソ連とアメリカの宇宙開発競争については、国家を挙げての活動で、Apolloもソユーズも、その打ち上げと成功はみんなに称賛された。
ソ連の熱狂の様子は、映画『ガガーリン』に見られた。これは、「意外」という一言に尽きるくらいに熱狂的なソ連市民の盛り上がりだった。
あの時代、世界は熱気に満ちていて、エネルギーにあふれていた。
50年前の、その時代の熱狂の最も象徴的な姿を、月を目指したこの物語に見ることができるのだと。
映画が果たす大事な使命、『時代を記録すること』がここに有った。
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