すずす

浅田家!のすずすのネタバレレビュー・内容・結末

浅田家!(2020年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

実在の写真家・浅田政志の18歳から約十年を描く、事実を基にした家族のドラマ。本当の彼の写真は以下の公式HPで見られます。
http://www.asadamasashi.com/sakuhin/
中野量太監督の映画は『湯を沸かすほどの熱い愛』以来、2作目の鑑賞。場所はTOHO新宿。

映画は浅田家の父の葬儀から始まる。妻子持ちとなっている浅田政志が選んだ父の遺影は父が憧れた消防士姿の写真。実際、消防士でもない父にこの写真はないだろう!と兄から突っ込まれる。浅田家では父が主婦役で、稼ぎは看護師の母が担っていた。
津市の18歳の政志は写真家を目指し大阪に上京するも、専門学校の成績はさっぱり。最後の卒業制作で、起死回生。家族三人が怪我をして同時看護師の母の治療を受けた際のバカげた家族写真を提出して、見事トップで卒業。しかし、彼は数年間、カメラから遠ざかる。被写体が見つからないのだが、父が憧れていた職業が消防士と知り、兄に無理を云い、消防士姿で家族写真を撮影する。気をよくした政志は、ロックバンド姿の家族、泥棒姿、ヤクザ姿などの家族写真を撮影。写真家として勝負を懸け、上京、遂に写真集『浅田家』を出版する。見事、日本の写真家の木村伊兵衛賞を受賞。家族とじっくり話し合った末に家族写真を撮る、独自のスタイルを確立する。しかし、彼が撮影した、岩手の家族が東日本大震災で被災。一か月後、彼は被災地へ向かい。被災した写真を持ち主に戻すボランティアをしている青年と出逢う…

現存する実話を基にしているだけに、ドラマは無作為、政志の成長と家族の物語として一直線に進むため、起承転結は弱含みです。
魅力は、何と云っても、レールからはみ出すことを厭わない、生き生きとした家族たち。その演出は『湯を沸かすほどの熱い愛』同様、中野監督のお家芸的に見事にツボにハマっている。主婦として生きる父を演じる平田満、母役の風吹ジュン、兄役の妻夫木聡、嫁となる黒木華。特にトボケタ中に味を出す風吹がハマり過ぎだ!主役の二宮君がそうである様に、普通じゃないが、嫌味がなく好感につながる配役!が絶妙と云える。

物語は、東北での二つの逸話がクライマックスとなる。
中学生の娘を亡くし遺影写真を探す父と、父を亡くした少女から家族写真の依頼を受けた政志がどう応えるのか、この二本立てのクライマックスとなっているが、そこにやや無理がある。それぞれの逸話が断片的な分、感動の深さに物足りなさを感じてしまう。
しかし、それを補う、名作『蒲田行進曲』の幕切れのような意表を突くお愉しみで、映画は心地よく閉幕する。

それにしても、この監督に、この企画をハメた、プロデューサー。そして、更に、この配役をハメたプロデューサーはしてやったりの思いだろう。
コロナ禍で、公開が減る中、日本映画の最高賞の本命と云うべき映画ではないだろうか。
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