このレビューはネタバレを含みます
私たちは時として、過去の時代や出来事に思いを馳せることがある。1980年代や1990年代、もしくは自分の学生時代など、「あの瞬間に行ってみたい」と思うことがある。
しかしながら、過去を美化しすぎるのはとても危険であり、華やかさな面だけを盲信するのでなく、暗澹とした陰の面にも眼を向ける必要がある。
「ラストナイト・イン・ソーホー」の主人公エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)も1960年代のロンドンに憧れ、自身の夢を叶えるためにロンドンに引っ越してくる。
ある夜、エロイーズは不思議な夢を見る。そこは1960年代のロンドン。夢の中でエロイーズは、歌手の卵であるサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)と一体化しているのに気づき、1960年代の華やかな世界に惹かれていく……。
序盤の1960年代の煌びやかな空気感と、中盤〜後半の全体的にダークな雰囲気のギャップがめちゃくちゃ好き。
劇中で多用されている赤と青のネオンは、現実と1960年代の世界の境界線としての役割を果たしているように思えた。この赤と青のネオンが使われるキッカケとなったシーンも、導入が自然でかなり好きだった。
印象的な箇所は多々あるけれど、とある人物をゆっくりとズーム・インしていくラスト際のシーンの絶望感よ……。単なるサイコホラーで終わらない、愛憎入り乱れたストーリーがとても面白かった。
監督のエドガー・ライトは、この映画についてのインタビューで「Good(良きもの)はBad(悪しきもの)なしには得られない」と語っている。
表も裏もどちらの側面も知った上で、エロイーズは自分自身を昇華させていく。その姿に、若者が社会人として世界に適応していく成長物語としての側面を感じ、自分自身の身の上を重ねてしまった。
ちなみにタイトルは、ディヴ・ディー・グループの「Last night in Soho」をもとにしているらしい。1960年代の曲であり、映画内でも使用されている。
他にもペトゥラ・クラークの「恋のダウンタウン」やピーター&ゴードンの「愛なき世界」など、1960年代の曲が劇中では多々使用されている。私は1960年代の曲に詳しくないが、使用された楽曲と登場人物の心情を照らし合わせ、考察していくのも面白そうである。