なべ

ラストナイト・イン・ソーホーのなべのレビュー・感想・評価

4.0
 アニャ・テイラー=ジョイのファンとしては、もっと早く観に行きたかったんだけど、タイミングが合わず、やっと観ることができた。

 おぉー、これは幻惑されるわ。罪と罰にまみれた大人の玩具箱をひっくり返したようなキラキラ&爛れた世界観。ハリウッドの予定調和とは異なる英国風な語り口がなんともいえない妙味を醸し出してる。
 今回はいつものエドガー・ライトらしい痛快なブリティッシュロック感はなく、60'sポップスのノリ。懐しみはちょっと鼻につくところはあるけど、ディミアン・チャゼルなんかよりずっと音楽を愛し、音楽に愛されてる監督だなあと思う。
 主人公エロイーズの60年代への憧憬とサンディの過去の事件をソーホーの猥雑さの中でリンクさせるって手法が憎いよなあ。鏡に映る虚像と現実のシームレスな表現なんてかなり壮観。ヒッチコックが生きてたら地団駄踏みそうな絵だ。刺激的な歓楽街ソーホーを舞台にした青春物語なんて、まるでエドガー・ライトのための舞台じゃないか!
 めちゃめちゃおもしろかったけど、ベイビー・ドライバーや、ショーン・オブ・ザ・デッドのように勢いだけで描ける内容ではないので、子供っぽい(悪くいえば幼稚な)エドガー・ライトには少し荷が重かったかと感じるところもある。
 夢を実現するために都会に出てきた女性と、その女性を食い物にする男性という構図は最高。でも10年前なら完璧な描写も、今の時代だともう少し踏み込んで欲しい気がする。
 たとえば性を搾取するゲスな男どもの成れの果ての恨みつらみとか、ジャックの亡霊にビンタされて我にかえるとか、っぽいなあ!と感心する一方で、ちょっとモヤモヤが残るんだよね。本当にそれでいいのかと。ちょっとガキっぽい事の収め方だと感じたのだ。
 悲しいかな、エロイーズが大家に昔の殺人事件を尋ねたところで、あーそういうことねとわかってしまい、それ以降は自分の読みの正しさを確認するような見方になってしまった。最後まで気づかなければあの落とし所でも満足できたのかもしれない。
 ちなみにストーリーとは直接関係ないんだけど、遺体の遺棄場所が明らかになったところで、シリアルキラーのデニス・ニルセンの床下収納を思い出して、ぞわぞわっときたんだよね。そういう過去の忌まわしい事件を彷彿とさせるという意味で、ソーホーなのはやっぱりうまいなあと唸った。連続殺人事件で、ソーホーはロンドンの中でも最も適したロケーションじゃないかと。
 些細なことだけど、卒業制作のファッションショーでは、エロイーズが逞しく成長してフィナーレを迎えるのだが、その時の衣装が改悪されててちょっとだけガッカリした。たぶん自分の能力と折り合いをつけたってところを、ただの懐古趣味じゃなく、現代のアレンジも加味してチャンチャンってことなんだと思うけど、ラフ画のサンディが着ていたあの衣装がかわいくて、あっちの方が断然良かった。
 最後にサンディがチョンと鏡を叩くところで胸がキュンとなったのは、やはりアニャ・テイラー=ジョイのキュートさによるものだと思う。ほんと彼女は観客の心を掴むのがうまいわぁ。
なべ

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