深獣九

ラストナイト・イン・ソーホーの深獣九のレビュー・感想・評価

4.0
ネオンサインと紫煙に彩られる街。
過去と現代をシームレスに行き来する映像美。
きらびやかな衣装と艶めくダンス。
60年代ロンドンの光と影。
衝撃で壮絶なラスト。

それらすべてが見事に調和した傑作、それが『ラストナイト・イン・ソーホー』。

主人公のエリーはファッションデザイナーを夢見て田舎から上京。残留思念というのか、亡霊と意識をつなげる不思議な力を持っている。ある夜、下宿した部屋の亡霊と繋がり、大好きな60年代のロンドンで歌手を目指すことになる。幸先よくクラブの舞台に立つことになるのだが、それは夢を食い物にするチンピラの罠だった……。

というちょっとブラックなファンタジーなのだが、これが良くできている。展開がけっこう難しいと思うし細かい説明は省かれているのだが、まったくストレスなく楽しめた。伏線がギリギリ細いので、あっと驚くラストも堪能できた。伏線に気づかないのは私だけ? 得してる笑。

映像美もすばらしく、エリーがもうひとりのヒロイン、サンディに憑依される(する)場面は特に好き。鏡やガラスにふたりが映り、お互いの表情が場面を物語る。過剰に説明的ではなく、余白がとても気持ちいい。
Wヒロインを演じるトーマシン・マッケンジーとアニャ・テイラー=ジョイが本当に魅力的で、物語を華やかに彩っている。ダンスシーンでふたりがくるくると入れ替わるところは、カメラワークの技術も相まって実に楽しい。こちらの頬も緩んでしまう。

エンターテイメント業界の闇を描いているところも非常に興味深く、60年前からまったく変わってないことに愕然とする。いつでも女性はクソジジイの食い物だ。才能を食いつぶす枕営業、だめ、ゼッタイ。

しかしクラブの客はほぼジジイだな。しかも品がない。ビシッとスーツを着ているから、より品性下劣が強調される。ロンドンって飲んだくれの街だって聞いたことあるけどその通りかも。紳士の姿をしててもただのエロい酔っぱらい。『キングスマン』ばかりじゃないのね。ちょっと笑う。

途中まではおしゃれなサスペンスかと思っていたのだが、しっかりスラッシャーもあり、ホラーファンとしても楽しめる。エグいシーンはないので、初心者にもおすすめ。

終盤のエリーと大家との対峙は、表情アップの切り替えに緊張が高まる。使い古された手法かもしれないが、効果的に使われていると感じた。全般的にカメラワークが最高だ。

ところで、このところZ世代のことをよく調べているせいか、ストーリーの余白がいつも気になる。いまどき観てもらうには、説明を細かな心情までセリフにしなきゃだめらしい。ストーリーと関係のない(と感じる)シーンは飛ばされるんだそうな。
その点、この映画はそこがとても良くできており、役者の表情や間が雄弁に語っていると感じる。実に気持ちいい(2度目)。でも飛ばしちゃう人もいるんだろうな。とっても残念だー。


おしゃれちょいこわホラーで友情も楽しめる『ラストナイト・イン・ソーホー』とっても素敵だった。
深獣九

深獣九