かじドゥンドゥン

ラストナイト・イン・ソーホーのかじドゥンドゥンのレビュー・感想・評価

3.5
父を知らず、精神を病んだ母を自殺で亡くした少女エロイーズ(エリー)は、田舎で祖母に育てられた。そのエリーが、憧れのデザイナーを目指すべく、ロンドンへ上京。そこは、彼女の母をも飲み込んだ、欲望の渦巻く街。

普段から夢見がちなエリーは、寮での共同生活に馴染めず、ある古いアパートの屋根裏部屋を借りて一人暮らしを始める。すると毎晩のように、彼女が憧れる1960年代に生きた少女サンディの姿を夢見る。その美貌と歌唱力、ダンスの才能で男たちを魅了し、いっきにスターダムをのし上がろうとする野心家のサンディに自分を投影しながら、華やかな夜の街を想像の中で満喫するエリー。ところが日を追うごとに、見えてくる映像の色合いが変わってくる。大型新人現わるとちやほやされたのもつかの間、「出世のために」を口実に、ショービジネスを仕切る男たちに搾取され、性的な奉仕を強要されたサンディは、ついにたまらず、自分をスカウトしたポン引きに抵抗し、返り討ちにあって、刺殺される。

ベッドの上で男に惨殺されるサンディの生々しい姿を、就寝中のみならず日常でも幻視するようになったエリーは、普段の生活や学業に支障をきたし、周囲からは精神異常者と見られ始める。さすがにもうロンドンでは暮らしていけないと断念したエリーは、大家である老女に部屋の解約を願い出る。そしてそのとき、彼女の正体を知る・・・。

大家こそ、エリーが夢に見たサンディのなれの果て。彼女は、自分を食いものにする男たちをのっぺらぼうに見立てて、心を無にして、ひたすら屈辱に耐え、ダンサーとしての出世を目指した。しかしそれでもついに耐えかね、自室に押しよせて来る男たちを次々と刺し殺しては、アパートに遺体を隠して生きて来たのだった。ロンドンで、(比喩的な意味で)自分を殺したサンディと、彼女に(実際に)殺された男たちの怨念がこのアパートにはまとわりつき、それが多感なエリーを引きずり込んだのだった。

この真実を打明けた直後、大家はエリーを殺しにかかるが、どうにか抵抗し、はねのけ、しかし同情とともに抱擁する。それでもやはり大家=サンディは救われない。無念と断念あいなかばして無気力に達し、炎に包まれる大家を残して、エリーはひとり脱出。一命をとりとめる。

一連の事実を知ることで、不可解な幻視に悩まされることもなくなったエリーは、帰郷を撤回し、その後は卒業ファッションショーで喝采を浴びるまでに成長し、祖母を喜ばせる。

1960年代ロンドンの光と闇を、映像・音楽で絢爛豪華に描き出している。