よーだ育休中

モービウスのよーだ育休中のレビュー・感想・評価

モービウス(2022年製作の映画)
3.0
幼い頃より血液の疾患に苦しんでいた天才医師のMichael Morbius(Jared Leto)は、吸血蝙蝠の遺伝子を組み込んだ血清を開発し、みずから治療を試みる。秘密裏に敢行した違法な治療行為によって、彼の身体は病魔を克服するが、同時に血を渇望する怪物へと変貌してしまうのだった。


◆ 拡大を続けるアメコミ・ユニバース

コウモリを模したアメコミキャラといえば、真っ先に《バットマン》を思い浮かべます。DC作品におけるヒーローはコウモリをモチーフにしたスーツを纏う一般人ですが、今回実写映画の主人公として白羽の矢が立てられたMARVEL版のバットマンは、スパイダーマンのヴィランとして誕生した、遺伝子レベルで吸血蝙蝠と結合している《生ける吸血鬼》でした。

今作はTom Hardy主演の【VENOM】から幕を開けたSony's Spider-Man Universeの三作目として位置付けられている作品の様です。当ユニバースは【VENOM】【VENOM ltbc】とEddie × VENOMにフォーカスした作品が続いていたので、MorbiusはSSUにエントリーした二人目のキャラクターでした。作品間の繋がりを持たせる演出として、貨物船の捜査にあたった警官コンビが『サンフランシスコ以来の大惨事』などとこぼしたり、Morbiusが『I am VENOM』とチンピラを威嚇したりするシーンがありました。

【VENOM ltbc】のエンドクレジットでは『トムハが観ているテレビにトムホが映り込んでいる』シーンがあり、今後SSUがMCUと接するマルチバース構想を匂わせる演出がありましたが、今作でもMorbiusの前に突如【Spider-Man hc】のヴィランが現れる演出がありました。アメコミのマルチバースがどんどん拡大していく様ですね。はやくMCUマラソン走らねば。


◆《天才医師》から《生ける吸血鬼》へ

血液の難病(傷病名は不明)を克服するため、吸血蝙蝠の《血液凝固を阻害する遺伝子》を会得しようと試みるMorbius(血液凝固疾患なのかな?ワルファリン処方じゃだめなの?)が、実験を経て血を求める怪物になってしまうのですが、ここまでが長い。その上、病による苦労話にばかりフォーカスされていてMorbiusのパーソナルな部分にはあまり触れられておらず『性格に難ありな天才医師』という事しかわかりません。さらに加えると、怪物の誕生秘話は既に実写化されているスパイダーマンの宿敵たち(グリーンゴブリン、オクタヴィウス、リザードなどなど)と同じで新鮮味に欠けるものでした。これはこれで、ある種の様式美なのかもしれませんが。

《生ける吸血鬼》になってしまったMorbiusは《血を飲む事で病気を克服し、超人的なパワーを得る》ことが可能となりました。身体能力の向上どころか、反響転移や風に乗って飛行する能力まで備わります。一方で、《血を飲まなければ病気の症状が出現》してしまい、自身の開発した人工血液(ブルー)は徐々に効き目が薄くなります。人の生き血(レッド)を啜るか、自ら死を受け入れるか。究極の二択を迫られるMorbiusですが、今作においてはヴィランとしてでは無くダークヒーローとしての選択をします。この点は少し掘り下げ方が甘いなと感じました。

…それにしても、VENOMといいMorbiusといい、みんな人を食べるのが好きね。


◆どうして彼がダークヒーローに?

天才医師のMorbiusには、幼い頃から彼と同じ血液疾患と戦う親友Milo(Matt Smith)がおり、大人になったMiloは資産家として彼の研究の支援しています。(彼がどの様にして財を成したのか非常に気になる所。原作読んだらいいのかな!)

Morbiusが開発した吸血蝙蝠の血清を使用して、二人は病を克服すると同時に怪物に成り果ててしまうのですが、その後に二人がそれぞれ異なる選択をしたことで、ダークヒーローとヴィランとの差が出てきます。

人智を超えた力を振り翳して友人や恩人さえも手にかけてしまうMilo。一方で、自らの能力を呪いと称し、人工血液(時々輸血パック)で渇きを凌ぐMorbius。二人の対比構造は非常にありがちかつ陳腐なもので、目新しさは感じません。長い前置きが終わった後のストーリーも至極単純なものでした。

そして原作では悪の道に堕ちている(らしい)Morbiusが、なぜ今作ではダークヒーローとして自身の運命に葛藤する事となったのかが全くわかりません。劇中で『自分は性格に難があるー』と嘯いていましたが、これって闇堕ちのフラグでは?その後、王道のヒーローコースに乗った経緯が全くつかめませんでした。【VENOM】では、シンビオートに寄生されたEddieについて《型破りだが正義感の強いジャーナリスト》というキャラ紹介が事前にきちんとなされていたので、Eddie自身の善性がシンビオートを抑制するダークヒーローとして腹落ちしました。今作にはそれが無いまま、エゴに走らず世のため人のために〜という調子だったので、ちょっと置いてけぼり。吸血鬼化した偏屈な科学者って、それだけで悪そうなのに。(超偏見)


◆か〜め〜は〜め〜・・・

色彩感覚とアクションシーンの迫力は中々良かったと思います。冒頭のネオンが流れるような演出は、今作の主演俳優であるJ.Letoが出演していた【ブレード・ランナー2049】を思い起こさせました。今作はダークでゴシックなテイストの作品だと思っていたので(勝手な吸血鬼のイメージ)ちょっと意外でしたが、サイバーパンク風の色調も味わい深くて良かった。コスタリカの雄大な自然や、市街地の夜闇の美しさも素晴らしい。(4K映像だったからかな?)

しっかり悪役面なMorbiusの造形に加えて、能力を使った時の耳や目の変化も絶妙な気持ち悪さ。細かい所まで拘ってデザインされていそうですが、MorbiusというキャラクターそのものにVENOMの様な可愛い要素がないので、残念ながら人気は出ないでしょうね。

変身した状態での疾走感あふれるアクションシーンが今作一の見所。冒頭はFPSの様にMorvius目線のカットを挟みながら傭兵を惨殺し(VENOMで云う所の〝bad guy〟なのかもしれないけど、この所業がサラッと許されてしまっているのもモヤモヤしたポイント)、後半は同じ能力を持つMiloと対決。動きに合わせてモヤがたなびく様なエフェクトはちょっとカッコ良かったですが、ラストの大量の蝙蝠を使った大技にはびっくり!モーションは孫悟空で、内容は白哉兄様の千本桜景義じゃないですか。あらやだカッコいい。


ここ最近ヒール役でよくお見かけするMatt Smithの悪役面×小躍りは次世代を代表する悪役俳優の気配を感じました。次はどんな悪い役で出てくれるのか、期待しています。(悪役限定)