原作は「外国旅行物」として最上の作品の一つであるとアガサ・クリスティ本人が述べている通り、その映像化である今作も、エジプトの薫りを感じられる仕上がりであった。
しかしながら、前作『オリエント急行殺人事件』では、イスタンブール発カレー行の列車内で繰り広げられるクローズド・サークル系ミステリとして緊迫感をまとっていたが、今作はどうも違うようだ。
船上で事件が起こるためクローズド・サークルかと思いきや、小船での途中乗船・下船が可能なため外界との完全な隔絶とは言えず、個人的には、せっかくの船上なのに…とやや勿体無さを感じた。
小説だと間違いなく面白いのだろうが、それは輪郭が少しぼやけたような読者の想像を誘うからであり、映像化によってしっかりとビジュアルを描きすぎたために、注視する必要が無いものまでくっきり見せられたような思いがしてしまった。
全体的に、思っていたより小さくこじんまりとしてしまった感あり。
美しき中近東の旅行映画としては上々だが、ミステリ映画としてはどうにもハラハラ感が弱いか。
次回作はマイナーな小説を下地にするということなので、次の展開を楽しみに待ちたい。
ちなみに、今作のパンフレットはハードカバー本を思わせる表紙デザインでNICE！
質感も紙を触った感じがよく出ており、お値段の価値はあり。
