タルコフスキーの、映画学校の学生だった頃の作品。これは興味深い。
その後の、あの神秘的で筆舌に尽くしがたいあの緊張感を湛えたタルコフスキー作品とは、完全に別物の作風。
けれどここに若き日のタルコフスキーの天才的なセンスがすでに宿っていることもまた間違いなく。
狭いバーの中で描かれる、光と影のコントラストから生み出される寡黙な物語。
原作がヘミングウェイなのだけれど、タルコフスキーの手にかかるとなんとも言い難い登場人物それぞれの感情の静かな鋭さに息を飲む。
殺されることが分かっていて自室から出られずただその時を待つ男は、我々すべての現代社会を生きる人間と共鳴するのかも。
サンドウィッチを買いにくる役で登場するタルコフスキー本人。
そのシーンの時の、ちょっとした仕草。
指輪をなんとなく磨いたり、「Lullaby of Birdland 」を口笛で吹いたり…。
そんなちょっとした演出にも、絶妙なセンスを感じさせる。