Hotさんぴん茶

シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢のHotさんぴん茶のネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

実際見たのは2019/12/15。印象深い作品で、当時のことを思い出して書いている。

シュヴァルがだいぶ不器用。不器用ってレベルじゃ無いこともまま有り。それもあって、息子への愛情表現少ないというか、ほぼ無いように見えて子ども時代の息子が可哀想だった。母を失ったというのに、もう少し無い?何か暖かい表現。息子に対して。
本人の中では何か思うところがあったんだろうか…。

でも1人親が働きながら子を育てるの、当時じゃ今以上に大変そうだし、息子と離れ離れは仕方なかったのね。ただ、なんだか淡々としすぎて、寂しさが増したシーンだった。

その後シュヴァル氏が再婚したら、奥様と娘の影響かシュヴァル氏の表情が柔らいだ気がする。愛情表現も少し豊かになった気がする。

そしてこの映画の主役、理想宮が登場していく。この宮殿、圧倒的存在感に言葉を失う。宇宙人が作ったのか?と思えるほど、本当に摩訶不思議な建造物だ。人の能力の無限大さを思い知らされる。是非とも実際に観に行きたい、この理想宮。

理想宮を作るきっかけになった石が印象的。実は自分は前情報として、スズキコージ氏の絵本(※)で知っていたのだが。いや映像で見ると想像以上に変な石じゃん!こんな石なら、素人目にも心に留まること間違いなし。なんだこの石?笑

ただその後のシュヴァル氏のコレクターぶり、凝り性ぶりは普通の人には真似できないだろうな。郵便局員でものすごい距離歩けるのも、その趣味に功を奏したんだろう。(何気にこの距離で本業でも評価されてたし、淡々と努力できる才能がものすごい。)

この宮殿を作るのは愛する娘のため、とこの映画の宣伝にあった。もちろんそれもあると思うけど。でも、この人はそれが無くてもこういった何かを造っていたことは間違い無いと思う。それくらい生粋のアウトサイダー・アーティストだと思った。もう造ること=生きることなんだと思う。

それにしてもこの映画、本物の理想宮をCGで削って建設途中の再現をしたんだとか。そんなの手間がかかりすぎ!そんな手間暇かけた贅沢なものを見せてもらえた自分。とてもありがたいし、見てよかった。

ところでシュヴァル氏、再婚しても相変わらず奥様の畑を潰したり、行動がおかしなところはあった…。でもそれでも家族の愛でバランスが取れていたのでは?

いつのまにか大人になった息子さんも現れて。そうしたらなぜかシュヴァル氏、奥さんと娘の前とは違ってまたカチコチになってしまい笑。愛情表現しないのね。
でもそこは息子も大人だからか?サラッとと描かれていたが、だんだんこの2人は歩み寄れていた気がする。

そんな中あまりにもショックなんだけど、可愛い娘さんが亡くなってしまい…。聡明に思える素敵な女の子だったのに。どうしようもない事実が、自分の心にも迫ってきて…。ちょっとほんとに言葉にならず、この映画で最も心に食い込んできたシーンだった。

でもそんなショックなことがあっても、シュヴァル氏の人生は続くわけで…。

宮殿の前で絵葉書のための写真撮影。最初は澄まして隠れていたシュヴァル氏も結局写りたいんじゃんね?最後は真顔でありつつもノリノリで、ポーズまでとってて笑えた。

でもまた、悲劇的なことが。今度は奥様が亡くなって…。人はいずれ死ぬとしても、耐えられる?こんなこと…。

でもその後も家族の絆は作られていって。やがてこんな不器用なおじいちゃんが孫や多くの人に囲まれて暖かいパーティーへ。会場はあの理想宮。なんなんだこれは、感無量。また改めて、なんて素敵な個性的な宮殿なんだろう。自然と人を惹き寄せる建造物なんだろう。シュヴァル氏の本当の人柄も現れてるんだろうか。

1人の人生、金のためでも無く本当に造るしかなかったそんな魂の結晶の宮殿。これが未来永劫守られることを望む。

悲喜交交あったけど、ここまで一つのことを貫けるシュヴァル氏の人生、生き様。かっこいいと思った。
この映画、また見たい。


※補足:スズキコージ氏の絵本は、「郵便屋のシュバルさん」と言う題名で『月刊 おおきなポケット』(1999年1月号 福音館書店)に掲載されていたようですが、現在世に出回ってないみたいです…。でも機会があれば読んでみてください。