戦前、軟派文化の到達点。歴史を刻むことのなかった日本映画の1つの方向への想像を掻き立てる作品です。
この映画に映し出される景色は、戦後の世界の生き写しです。カメラワーク、服装、金属的な車の煌めき、「姉さんは私が幸福になるのを邪魔する権利なんかありゃしない!」、夜空に浮かび上がる「ゼネラル・モータース」のネオン、、、ここに映し出されているのは馴染み深い60年代の景色です。この景色が数年後に空襲に遭うと思う時、戦争の恐しさが身近に感じられます。夏休みに家に持ち帰った防災頭巾を、おばあちゃんが「防空頭巾」と呼んだ時のようです。
灯火管制を受けて銀座の夜景からネオンが姿を消したのは、’38年の7月だそうです。本作はその最後の瞬きを宿しています。
「こういう時、昔の人だったらやっぱり自分を捨てたんでしょうね。」
「水代ちゃんの美しさはざっくばらんよ。親しみやすい美しさだわ。」
「まるで子供ね。女の腐ったのみたいな仕打ちだわ。」
「お店が無ければ働けないんですか?お金が無いと真剣に立ち上がる気持ちにはなれないんですか?」
「とにかく結婚が先でないとあたし何にも信じられないの。」
「姉さんは私が幸福になるのを邪魔する権利なんかありゃしない!」
「あたしは一森さんなんか好きじゃない!木幡さんが姉さんにばっかり構ってあたしのことなんてちっとも構ってくれなかった。あたしの気持ちなんかちっとも考えてくれなかった。だからあたし一森と遊んでやったんだわ。あたしは木幡さんが好きだったんだ!」
「この商売ほど自分を殺した職業もあまりないものだよ。」