まりぃくりすてぃ

東京の女性のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

東京の女性(1939年製作の映画)
4.9
最初は、お猿がこしらえたB級未満映画かと思った。屋上での立松晃さんたち男優二人の立ち回りがあまりにもフニャフニャだったから。予感としては、原節子様は単に “掃き溜めのフラミンゴ”。。。。
ところが、意欲零点のその屋上シーンを除けば、す、す、凄すぎた!

まず、節子様の女優力の完璧さ(容姿・装い・言葉出し・表情・所作・たたずまい。モガモードを跳び越えた男装麗人そのものである太タイ・縞スーツや、妖精サブリナもびっくりの車オイルまみれさえも!)がこの作品を照らしに照らして全体をザ・太陽系にしてる。
それに加えて、妹役の江波和子さんの CanCam な魅力(まるで世界一美しい案山子?みたいな、超絶的&超時代的な抗しがたい可愛らしさ)は、な、な、何なの!! 姉妹とも、その時代にいったい何を食べたらそんなに「美しく」「大きく」育つの???
節子様には当時ヒットラーが求愛したくなったらしい、という今じゃ遠すぎるような歴史にも、思わず「いいね」を送りたくなっちゃいます。妹への節子様の “能う限り本気っぽい” 張り手二発は、先述の屋上での男優陣と比べて凄味。大振りよりもショートフック気味のがリアルか。本当に江波さん痛そうだった。

最後の(脇見が変に多い)運転シーン、死の予感や泣き顔もありえたのに、節子様の顔つきがああいうふうに変わった(翔け上がった)のは、まさに『東京の女性』なるタイトルの完結、作り手側の高らかな離陸宣言でした。───男前? 女前? どっちでもいいわ。とにかく『帝都の婦人』や『江戸のおみな』じゃない。原作がまず偉いんだけど、日米開戦以前でのこの言葉選びだよ! 2010年代後半の今だって、東京新聞(首都圏で最もマシな新聞なのでここで挙げる)なんかの連載ルポルタージュの題になってもおかしくない、硬質で清潔な今日性! 正直、私、タイトルに惹かれてこの映画を観に行ったのでもある。
逆にいえば、男性社会に食い込んでキャリアを求めゆこうとする女性の隘路感(恵まれてきてはいるけど、やっぱ生きにくいのよね)は1939年頃と今とでそんなに変わってなかったりもする。

『風と共に去りぬ』にこれがリアルガチにぶつかっていった、あの重要な時代を私はもっともっと理解したい。フェミ視点とはまた別に、日本列島が(捨て石扱いが続く沖縄を皮切りに)偏狭ファシズムにいよいよ冒されつつある2020年近い今だからこそ。
だってさ、お姉ちゃん(節子様)や水代ちゃん(江波さん)みたいなキラキラの女子が、わずか数年後にはモンペ姿や質素な和装での銃後生活に閉じ込められて、ついには大空襲や原爆で黒こげになって皮膚という皮膚がビロビロ垂れ下がって「水。……水をください」「赤チンください」だけ言いながら死んじゃったりしたんだから。

それにしても、水代ちゃんの江波さんは………単なるお馬鹿なコケティ役になんかとどまらず、(台本のすばらしさもあって)フェイントまで幾度も繰り出しつつ、殊勲・敢闘・技能賞全部あげたくなるぐらい役割全うしてます。彼女の出来次第では凡作にもなりかねなかった映画です。
綺麗といえば、バー(キャバレー?)の女給役の人もでした。
その一方、母さん(水町庸子さん)の演技をカメラがあまり丁寧には捉えようとしなかったのはちょっと淋しい。クローズアップしてもわずか半秒で暗転とか。華のない役回りだからといってあんまりです。
二枚目役の立松さんは(例の屋上シーンだけは絶対に要撮り直しですけど)、まあ合格。プロですね。


[東京国立近代美術フィルムセンター(現国立アーカイブ)の “原節子選集” で2017年11月に鑑賞し、このレビューも当時執筆。傑作なのに filmarks にタイトルがなかったため、私が最近リクエストして加えてもらった!!]