図師雪鷹

いつくしみふかきの図師雪鷹のレビュー・感想・評価

いつくしみふかき(2019年製作の映画)
5.0

「言い方が違ったかなあ。……この村から出ていってくれ、進一くん」 


渡辺いっけいが今作で初めて映画主演を飾る。

『カメラを止めるな!』に続き、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭観客賞を受賞したという実績を持つ本作。
本作の舞台が私自身の出身地である長野県飯田市ということもあり、色々期待して観に行ったが、想像以上の、慈しみ深い物語や登場人物に心打たれた。


渡辺いっけい演じる広志は "悪魔" である。妻が、息子である進一を苦しみながら出産している中、あろうことか妻の実家に盗みに入り、村人からボコボコにされた。
村から追い出された広志はヤンキーと手を組み、多くの悪事を重ねていく。

一方、息子の進一 (遠山雄) もまた問題児だった。
大柄な男に成長したが、仕事に集中できなくなると職場を抜け出し、そこら辺でのんびりぶらぶらする。もちろん一つの仕事を長く続けることなどできていない。彼のことをとても愛している母親は色々な職場に頭を下げて彼の独り立ちをサポートしているが、限界に近そうだ。

あるとき、村内で連続空き巣事件が発生。疑われたのは進一だ。
特に母親の弟は、優しそうな言葉で装いながら「ここから出ていけ」と冷たく言い放つ。
他の村人も彼に追従。唯一擁護してくれそうな母親でさえも泣き喚くばかり。
もちろん、進一は出ていきたくない。


だが、進一は知っていた。

自分が、 "悪魔" の血を引いていることを。
村を傷つけた "悪魔" のせいで、自分は誰からも信用されていないことを。



村内で何の目的もなく生きてきた進一。
新天地で彼は神に誓った。


「俺に父親はいない」
「あいつの人生をメチャメチャにしてやる」



だが、父と息子は意外な形で遭遇することになってしまう。
ふたりは一体どうなってしまうのか。本当に目が離せない。



飯田市がリニア計画で活気付いていく影で、未来を見いだせずにもがく2人の男。
忘れたはずの過去、傷つけられた過去に向き合うとき、彼らの叫びは冷たいコンクリートに響く。


もちろん、進一は広志が大嫌いで、広志も進一との関わり方を決めあぐねている。
だが、2人で抱いた夢は決して傷つけられない。


親子の数は親子の数だけあるが、彼らは唯一無二だ。残酷に感じるが、同時に美しくもある。

渡辺いっけいは、ライアーゲームの胡散臭い感じのイメージしか無かったが、完全に覆された。もう1人の主役、進一を演じる遠山雄は無名の俳優とのことだが、繊細さと大胆さを絶妙に使い分ける彼の演技に私はとても魅せられた。 


ポスターのビジュアルは未鑑賞者にはかなり異様に映ると思う。

妄想してください。
何がどうなって、こうなるか、妄想してください。


今は舞台である長野県飯田市の二劇場 (トキワ劇場、センゲキシネマズ)、渡辺いっけいの出身地、愛知県豊川市のイオンシネマ豊川でしか上映されていないが、この作品はこれから伸びる作品だ。

伸びていってほしい。
多くの人に見てほしい。

4月17日からテアトル新宿、5月22日からはテアトル梅田で上映される。


他にもあるが、現状は少ない。


どうか、公開館が増えますように。
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