ビンさん

女の仕事のビンさんのレビュー・感想・評価

女の仕事(2022年製作の映画)
4.0
シアターセブンにて鑑賞。

とある作品で長谷川千紗さんという俳優を知り、俳優のみならず監督もされる才人ぶりに、ここ数年注目していたわけだが、5年前に撮影された本作が、ようやく公開の運びとなったのはじつに嬉しいかぎり。

監督は『ダイヤモンドの月』が、90年代当時の映画、ビデオ雑誌で紹介されていたのを見て、作品の存在は知っていたのだが、なかなか観る機会に恵まれなかった野火明氏。

今回の『女の仕事』上映に際して、特別上映もされたので、ようやく観ることがかなったのも嬉しかった。

個人的に敬愛する上西雄大さんも出演されていたり、製作がワイルドファイアっだったり、上西作品にもゆかりのある長谷川さんが主演で、しかも殺し屋が主人公となれば、期待値もあがるというもの。

実際、作品自体は予想を遥かに上回る快作に仕上がっていた。

近未来。
政府に反する思想を持つ人物を、秘密裡に暗殺する政府公認の殺し屋集団がいた。
しかも、メンバーはすべて女性。

ヒロインのチサ(長谷川千紗)もメンバーの一人だったが、初めて自分がメインとなった依頼が下る。
それは、旧日本軍の海外での蛮行を劇画で配信していた漫画家マコト(品田誠)を暗殺することだった。

チサはマコトに接近するも、急遽仕事は一旦中断される。
その間、チサはマコトに本気で惚れ込んでしまうのだった。

チサの出現で、大手出版社からの仕事も舞い込むマコト。
しかし、中断していた暗殺指令が再始動。
今や愛する人となったマコトを、果たしてチサは殺すことができるのか。

正直、物語自体はよくある話。
しかし、本作では例えばチサとマコトの関係だったり、チサの仕事だったり、その描写の諸々がじつにリアルなのだ。

まったくの絵空事だが、さもありなん、と思わせる野火監督の演出と、それを受ける長谷川さんと品田さんの演技がとてもいい。

その自然体な演技は、ほんとに恋人同士の生活を覗き見してるかのようだ。
ベッドシーン等々の描写も本当にしぜんであり、けっこう濃厚なのだがイヤらしさというよりも、本当に恋人同士の姿のようで、なんというか清々しいのだ。

だからこそ、チサが描く拙い漫画をマコトが絵本に仕上げていくクライマックスが、もうなんというか胸に迫って泣けてくる。
どちらかといえば、殺伐とした作品だが、エモーショナルな展開となるそのバランスは、『ダイヤモンドの月』でもそうだったが野火監督の独壇場かと思う。

これほどの作品が、5年も眠っていたのは、おそらくコロナも影響しているのだろうが、じつに惜しいことであったし、こうして陽の目を見ることができてじつに嬉しい。

この5年の間に、作品で描かれていることは、より一層信憑性を増すものになっている。
いまだからこそ、是非観るべき作品だと強く感じた。

と、べた褒めの本作だが、唯一不満な点を挙げれば、暗殺グループの使う拳銃は、やはり消音装置を使うべきだろうと(笑)
それと、あっさり殺される上西さんかな(笑)
ビンさん

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