風間唯

地上の輝きの風間唯のレビュー・感想・評価

地上の輝き(1969年製作の映画)
4.0
ジャック&ベティで「映画批評月間 フランス映画の現在」よりギィ・ジル3本立て。各々それほど長くないとは言え3本連続はさすがに疲れた。平日日中にもかかわらずそこそこの入り。人のことは言えないが、シネフィルたちのレア作にかける情熱たるや。

日本ではもちろんのこと、本国フランスでもほとんど知られていなかったギィ・ジル。彼の初期作の特色としては、急激なズームやパン、スライド映写の様な矢継ぎ早のカット、リリカルな劇伴、そして簡潔簡明な台詞。台詞が分かりやすい為に字幕と同時追いしてしまい却って大変、余計集中力を使ってしまった。

メランコリーとノスタルジーに溢れたセンチメンタルな表現様式は文学的、詩的。独創的でありながらもどこか既視感を覚えるのはその郷愁性ゆえかもしれない。その作品を一言で表すならば le souvenir(思い出)。人やオブジェ、場所が持つ記憶から受けるイメージを叙情的に紡ぎ上げていく。モディアノ小説の世界観に近いが、モディアノの朧げで手探りするような感覚とは異なり輪郭はかなりはっきりとしている。それでも作風としては好み。3作品観続けたせいでその世界にどっぷりとはまり込んでしまった。

最も良かったのは『地上の輝き』。『オー・パン・クぺ』と表裏の関係を持つ作品で、どちらもパトリック・ジュアネが主役を務める。移り住んだパリのマレ地区から、その地で生まれ幼少期を過ごしたチュニジアのチュニスへ旅立つピエール。フランス統治時代の名残を感じつつ、独立後も留まり教師として暮らす恩師と邂逅し、現地で死んだ母の面影を求める。アイデンティティ探訪の旅でもある。終盤とある知らせがもたらされパリに戻ることになるのだが、そこにも喪失が。それはまたその場所に思い出を刻むことになるのだろう。色彩と音が印象的な一本。
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