fuming

ミッドサマーのfumingのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.0
近年では最も話題を攫った一大カルト・ホラー映画。アリアスター渾身の怪作。隔離された村と風習にまつわる物語で、そこに訪れた主人公達が目の当たりにするものとは——というホラーでは定番の設定であるが、味わいはかなり独特な一作だと思われる。

本作の評論やパンフレットなどを読んで深めた感想であるが、本作は非常に「カルトと集団社会」というものの核についてよく描写出来てる内容だと思う。また同時に、現代社会の一大テーマとも言える「多様性」や「自分らしく生きる」ということの反証、あるいはアンチテーゼ的なものを敢えてこの時代に取り上げた非常に意欲的な作品だとも思う。
というのも、本作のラストで主人公に訪れた「祝福と救済」はやはり村人との号泣シーンが決定打となったものであろう。山盛りのストレスを抱え、心の拠り所や頼れる人物を喪失していた主人公にとって「個」として生きることは逆に過酷であった。また同様に、現代で生きる我々にとっても「個性を尊重し、自分らしく生きよう」という世の中のメッセージは、単なる目指すべき漠然とした理想から「自分らしく生きなければならない(そうでなければ無個性ななんの取り柄も無い人である)」というような逆らい難い呪縛のようなものになりつつある。現代社会は皆が自由と多様性を目指しているようで、実は「個」として生きなければいけないことに疲れてしまっている人も多くいるのではないだろうか。本作の結末とホルガ村という舞台は、そういったある種現代的なソーシャル、伴う倫理や価値観、ジェンダー性といったものから降りて、完全に閉じた集団コミュニティの歯車として生きることの姿をまごうことなき1つの幸福論やカタルシスとして描いている。そういう意味では、本作の顛末は近年多く見受けられる「女性が個人としての幸せを掴む、旧来的な価値観やジェンダーから解放される」といったフェミニズム的な文脈を持った作品とは寧ろ真逆であろう。

まとめると、本作の面白さの賛否はさておき非常にユニークな一作として、映画史において価値の高い作品だと思う。またホラー映画であるが、しかしディテールは難解かつ非常にシュールで、視聴者によっては全然怖く感じない人もいるだろう。舞台であるホルガ村の風景も明るく草花の彩りが美しい。「怖い」というかひたすらに「不気味」である。しかし、この直接怖くしていないのに作品を通して滲み出る得体の知れないドス黒さは本当に秀逸だと思う。ヘディタリー継承で既に十分頭角を現したアリアスターであるが、本作によって彼は現代ホラー映画界隈において、もはや最重要人物と称しても過言では無いほどの存在感を確立したであろう。
fuming

fuming