エソラゴト

ミッドサマーのエソラゴトのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
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私の住む近隣地域にある割と大きな神社では毎年5月に「くらやみ祭り」という例大祭が大々的に開催されます。「貴いものを直接見てはならない」という古くからの言い伝えから真っ暗闇の夜間に執り行われていて現在に至るのですが、江戸時代にはその暗闇に乗じて男女無礼講の出会いの場ともなっていたようです。そしてそう言った所謂「奇祭」は子孫繁栄という目的で少子化や廃村から守るという意味合いもあり日本各地に存在していたそうなのです…。


前作『ヘレディタリー/継承』で衝撃の長編映画デビューを果たしたアリ・アスター監督。「怖い」「恐ろしい」というホラー映画の定石や固定観念を打ち壊す何とも表現できないイヤ〜な気持ちにさせるゾワゾワと精神的に"来る"作品を我々の前に提示しました。

しかしながら、当時劇場で鑑賞した際に終盤にかけてのあまりの超絶展開には"なんじゃコリャ"な作品大好物の自分でもお口アングリまさに頭ポカーン状態に陥り世間の大絶賛の嵐の中、個人的には今一つしっくり来なかったのが素直な感想でした…。

そんなモヤモヤを抱えつつ挑んだ話題沸騰の最新作。前作のその終盤展開を思いっきり増幅・拡大し不穏な空気感を徹頭徹尾最初から最後まで全編に渡って描写する今作は前作自体が今作への布石や伏線となる事でその感じていたモヤモヤが一気に吹っ飛び、ガッツリ自分のハートを鷲掴んで離しませんでした。

劇中の登場人物が語るようにほぼ一日中明るい"白夜"は時間の感覚を麻痺させるだけでなく、人の感情や情緒のみならず常識や倫理感等何もかもを狂わせる不思議で神秘的な力を持つ魔空間にも見えます。

それに加えて片田舎の奇妙な風習や奇祭、明るい空を反映した人々が身に纏う真っ白な装束と屈託の無い笑顔、そしてフレンドリーな振る舞い…。白夜による「美しさ」「清らかさ」とは裏腹の「恐怖」「畏怖」を感じさせるそこかしこに配置された伏線や演出には大いに楽しませてもらいました。

暗闇ではなく清々しい青空の下を舞台設定する事でまたしてもホラー映画の常識をぶっ壊す作品を創り上げたアリ・アスター監督。前作同様に自身の過酷な実体験を乗り越える為のセラピー的役割を映画に託しているそうですが、そんなパーソナルな創作を一級のエンタメ作品として昇華し興行収入的にも批評家筋からも高評価を得ているアリ・アスター監督の力量と実力の底知れ無さはさる事ながら、その才能に惜し気もなく資金提供するA24にも感服ですし、今後も更なる注目を集める製作会社であることは間違いありません。



追記その1:
公開2日後にも関わらず、パンフは売り切れ!前評判の高い超大作などではままありますが、今作でそれに遭遇するとはビックリ…。後日入荷を確認して改めてその為だけに再度劇場に足を運びました。その甲斐もあってかお値段やや高めですが、装丁やデザイン・写真・内容など全てに於いて大満足!この世界観にドップリ浸りたい方には買って損は無いと思います。

追記その2:
23分の未公開シーン追加&ボカシ無しのディレクターズ・カット版の上映会が1日限定であるそうです…が、このご時世の為残念ですが参加は断念…ソフト化若しくは配信までのお楽しみにしたいと思います。