まや

ミッドサマーのまやのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.2
共同体の物語なのでてっきり共感賛美を描いているのかと思いきや真逆だったり、北欧神話にまつわるのに反ワーグナーを感じさせる内容だったりと色々面白かった。エンパシーとりわけ共苦の全否定はアンチワーグナー祝祭劇的でどちらかというとニジンスキー版ストラヴィンスキー『春の祭典』の感情が欠落した共同体の方を彷彿とさせる。
「死」は自己認識できないものであり常に他者を通してしか完結しないが「苦」は常に自己認識のみで成り立ち他者を通さない。ここでの共苦とは主人公の悲しみに寄り添って共に泣いたり尊厳ある自殺に失敗した長老の苦しみに寄り添い共に嘆いたりするホルガ村の住人たちのポーズでしかなく、それは最後、儀式で犠牲になった村人が生きたまま火に焼かれる時に見せる苦悶の表情を映したシーンが挿入されることでも明らかである。
ホルガ村の輪廻転生思想はホルガ村の儀式のマンネリズムそのもので、主人公ダニーは恋人クリスチャンとのマンネリズムを終わらせた代わりにホルガ村のそれに取り込まれた。北欧神話にはラグナロクがあるのにホルガ村には存在しない。終わらない、終われない恐怖。
ホラー映画は少々苦手なのでかなり覚悟して観に行ったが、怖いというより演出で妙に怖がらせられている感があったような。とはいえ後を引く作品だったので勇気が出たらもう一度観たい。勇気が出たら。
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