Cisaraghi

憶えてる?のCisaraghiのレビュー・感想・評価

憶えてる?(2018年製作の映画)
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イタリア映画祭にて。監督ご本人が前説してくれる映画なんて初めて観た。お陰で居住まいを正して観ようという気持ちになって、決してわかりやすいとは言えない静かでシリアスな映画だったにも関わらず一瞬たりとも眠くならなかった。平行して二つの意識の流れがあるという見方のヒントは、実際役に立ったと思う。
 監督は大きな建物を建てるように周到に設計図を作り、その通りに撮ったとおっしゃっていて、それが相当上手くいっていたのではないか。それでもわからなかったところはあって、何もヒントがなかったらもっと混乱していたに違いない。

途中、「彼」がかなり鬱陶しくなってきて「彼女」の気持ちに同調したが、わざわざ日本まで来てくれた監督さんを目の前にして好意的に見ようする意識が働いたのと、ルカマリことルカ・マリネッリが演じたことで「彼」のウザさが薄まった部分はあったと思う。しかしルカマリ、表情が無いところも猛禽類。

映像はファンタジックで本当に綺麗。ドラマとしては正直何度も見たくなるような映画ではないが、数々のあんな絵やこんな絵は、最低でももう一度は見たいと思わせる魅力がある。監督は、撮影はプロットの組み立てほど苦労しなかったとおっしゃっていたけれど、家の内観・外観、どこでもないような草原、クレーターのような形の池、光溢れる緑の松林などなど、場所の選定には相当時間をかけてこだわったのではないか。その選び方にセンスが光る。
 画面にチラチラと舞う雪や木の葉様のもの、漂う靄などを重ねているのも幻想的で美しい。全体に水色がかったトーン+渋いオレンジや錆びた赤の使い方が印象に残った。くらげ、赤毛、彼女のワンピ(どれもすごくカワイイ!)。風をはらんだ布の様々な使い方も。
 どうしたらこんな映像を作れるのか技術的なことはわからないが、おそらく照明が映像美を演出するのに大きく貢献しているのだろう(撮影技術に関しては全くの無知)。
 この映像の美しさは、人様の言葉を借りれば、ニュートラルな意味でInstagram的だった。でも、映像だけの映画にはしたくなかったという監督の言葉通り、しっかりとドラマも構築されていたと思う。
 ドビュッシーを中心とする音楽も心地よく、ここに尖った音楽を持ってこなかったのは観る人に優しくて、監督のわかってもらおう、楽しんでもらおうという意識が伝わってくる気がした。

結末は好き。どういう意味があるのか?とQ&Aで質問されていた、音楽に合わせて動く音符のようなカラフルなグラフィックも楽しかった。

あと、過去の記憶の再現映像的な点では『ローマ』ともちょっと似ていると感じた。こういうの流行るのかな?
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