映画好きの柴犬

82年生まれ、キム・ジヨンの映画好きの柴犬のレビュー・感想・評価

82年生まれ、キム・ジヨン(2019年製作の映画)
4.0
他人の言葉でなく、自分の声で

 夫(コン・ユ)と1歳の一人娘と暮らすキム・ジヨン(チョン・ユミ)。育児のために会社を辞めたジヨンは、社会からの疎外感と根深い女性差別から精神のバランスを崩していく。

 昨年、結構話題になった、ベストセラーフェミニズム小説の映画化。憑依っていう作劇上のギミックはあるものの、気を衒った感じにはなっておらず、クソが付くほどリアルに女性の生き辛さが描写されていく。

 キム・ジヨンが真綿で首を締めるように追い詰められていく様子を見てて、こちらも真綿で締め上げられているような気分になる。明確に悪意を持っている人はほとんどいなくて、誰もが息を吐くように普通のことのようにジヨンを追い詰める。一見善良で優しい夫ですら、ジヨンの苦悩の本質を分かっていない(こういうのを見せられると、自分はいい夫のつもりだったけど、果たしてちゃんとできてただろうか?と不安になってしまう)。明確に悪意を向けられないから、怒りを吐き出すこともできずに、溜め込んでしまう(そして、言えなかったことを憑依した他人の言葉を借りて伝えてきた)。唯一、終盤のカフェであからさまな嫌味を向けてきた会社員に対して、ジヨンが食ってかかるシーンぐらいか(「さあ、声をあげよう」と”Speechless”が頭の中でリフレインした)。

 原作(未読)では、ここで声を上げることはなく、嫌になるぐらいの鬱エンドを迎えるらしいんだけど、映画の方は希望のある終わり方で、これはこれで良かったし、そういうメッセージなんだろうなと思った。

 チョン・ユミは、派手すぎない普通っぽさがいいんだけど、それが役にはまってた(もちろん普通じゃない役もできる人だけど)。