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82年生まれ、キム・ジヨンのringoのレビュー・感想・評価

82年生まれ、キム・ジヨン(2019年製作の映画)
3.5
ストーリーオブマイライフのとある台詞を思い出した。「女には心だけじゃなくて知性も魂もある。美しさだけじゃなくて野心も才能もある。結婚だけが女の幸せなんて絶対に思わない。なのに…たまらなく寂しいの。」


どうしたって妊娠出産ができるのは女性で、代わりに男性に妊娠出産してもらうことはできない。世の中の夫婦はそんなこと分かった上で、それでも子どもが欲しいから妊娠出産を選択する。そして妻は産休をとる必要があり、その間に職場では産休をとらない別の誰かが仕事を頑張り努力をするから出世していく。だから妊娠出産を選ぶのであれば女性は出世ルートを諦めるしかない。これって解決するのかな。正直なところ、こればっかりは選択の問題でどちらかは諦めるしかないといまだに思う。(自分の職場で女性の先輩たち見ていても思う。)

それから、育児休暇は「休暇」ではない。この映画のように、世間の子連れママも肩身が狭い思いをしてるんだろうなあ。子連れママがたとえ平日の昼に公園で遊んでいても、それは育児という仕事中なのだ。それにその人だってもしかしたら育休に入る前はものすごく優秀でキャリアを積んだ人なのかもしれない。育休が終わればまた復帰してキャリアを積んでいくのかもしれない。私はそういう目で人を見ていきたい。

代わりに育休取ろうとする夫、でも夫の方が稼ぎが良いという現実。それなら妻が育児を主に担当した方が良いと思うのが普通では?ジヨンも結婚を機に正社員としての仕事を辞めたわけで、パートや再就職に比べたら夫が働いた方が効率が良いのは当たり前で仕方ないというか、シンプルに役割分担というか…。今時、男性より稼ぐ女性も増えてきてると思うからこそ、結婚を機に仕事を辞める決断をしたのがジヨン自身なら余計にそう思う。

男性も思うことは色々ありそうだ。男性の育休がすすまないのは、育休をとれば昇進しにくくなる現実があり、それなのに家族のために夫が稼がなきゃいけないという風潮があるもんだから、これまたなかなか簡単には解決しないんだろうな。

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私にはなんだかんだジヨンが恵まれてるように思えた。真面目で優しく、働きながらも家事にも多少なり協力的な夫、両親(特に愛の深い母親)、素敵な姉や弟に恵まれ、夫の家族とも(部分的には酷いところもあったけど)取り上げるほど悪い関係とは言えない。精神科にようやく通ったと思えば先生もとても良い人で順調に治療が進みそうで。
そもそも病気である事実をすぐ本人に伝えて受け入れさせて通院させなかったのが不思議でならない。根本的に精神を追い込んだ原因は解決するのはすぐにはできなくても、精神科に通うことで解決することも沢山あったと思うのに。

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ごく一部だし、男性に限らないけど、最低な人がいるってことは事実。盗撮とか痴漢とかってほんとに世の中に溢れてる。あの場で女が注意しろと言ってくる父親は最低だった。女性に本当に優しいのは大抵女性だとも思った。実際私も痴漢にあったことはあるけど、むしろ痴漢にあったことがある女性なんて多数派だと思ってる。普段はそんなことを思わなくても、痴漢にあうと心の底から男はクズだと思い怒りが込み上げる。例えば痴漢にあいたくないがために1両しかない女性専用車両にたくさんの女性が毎朝満員の中押しつぶされながら乗る。男性はふらふら夜道を1人で散歩できるのに女性は襲われるのが怖くて自由に出歩けない。こういうのって普通になってるけど本来はおかしいこと。

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義母の「息子の将来を邪魔する気?」に対して母の「ジヨンも学があり会社にも勤めてました。助け合うべきでは?」は本当にその通りだった。あと、家族団欒のシーンで、父親の発言に対して「おとなしくしないで、思う存分出歩きなさい!」と絶叫する母はかっこよかったな。女性だって男性と同じように強く大切に育ててもらい、勉強し、必死に就活して仕事を手に入れるのだから。

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〇〇の母、〇〇の妻、それもひとつの幸せなのは事実だし、結婚を機に仕事を辞めて自らそうなることを選ぶ人もいるけど、やっぱり一人の人間として凛と立って生きていたい。
例えば結婚したら自分の親からもらった大切な姓が変わってしまうのも当たり前なようで、なんだか悔しかったりもする。
最後2人で歩く後ろ姿はなんか良かったな。「チョンデヒョンとその妻」ではなく「チョンデヒョンとキムジヨン」に見えたから。

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この映画は、女性は辛い、母は肩身が狭い、そういう面を切り取った映画だけど、決して女性だけではない。男性も、父も、男性だから、父だからと背負うものを飲み込んで生きている人がたくさんいるはず。

それからこの映画を観て、女性は大変だな、可哀想だな、反省しなきゃ、協力しなきゃ、みたいに思う男性もいるかもしれないけど、正直なところそんなことで解決できない問題が多すぎる気もする。
実際この映画でも、夫は結局育休を取ることはできず、病んでしまった妻を哀れんで涙を流しただけでほとんど変わっていない。社会ももちろん変わっていない。結局変わったのはジヨンだ。
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