むぅ

シラノ・ド・ベルジュラックのむぅのレビュー・感想・評価

3.6
『恋とか愛とかルッキズムとか』

【第一幕】
カピバラとうさぎが楽しそうに話している。
(以下 カピバラ:カ うさぎ:う)

う「バチェロレッテ2始まるね!」
カ「そうなんですよ!楽しみで!」
う「始まったらその話しに来るねー!」
カ「是非!お待ちしてます!今日もありがとうございます!」

うさぎ、帰る。
カピバラの背後にチーターが佇んでいる。
(以下 チーター:チ)

チ「意外っス。恋愛リアリティーショーとか観るんスね」
カ「観るさ、何なら結構好きさ」
チ「でも恋バナとかしないっスよね」
カ「ハラスメントになりかねんからね」
チ「なるほどっス」

チーター、バックヤードに消える。

【第二幕】
夜、仕事帰りのカピバラとチーターが駅へ向かっている。

チ「恋愛リアリティーショーって何が面白いんスか?」
カ「いやまぁ、人の恋愛のあれそれ見て楽しむから基本下世話なんだけど、あぁこの人はこういう価値観を大切にしてるんだなー私もそうかもなとか学びや気付きもあったりするわけよ」
チ「観るならバチェラーが面白いんスか?」
カ「どうだろね、私は最近は『ラブイズブラインド』が面白かったよ」
チ「愛は盲目ってことっスか」
カ「うんまぁ、相手を見ないままコミュニケーションとって、恋に落ちたら会う、で、果たしてってやつ」
チ「ルッキズム検証してるっスか」
カ「真実の愛を検証してるはずだけど、ま、大いにルッキズムが関係してくるよね」
チ「観るっス」
カ「何かあったの?」
チ「あ、ハラスメントっス」
カ「!!」
チ「うそっス、でも今度聞いて下さい」
カ「はい、喜んで」

カピバラとチーターは駅に着く。

配役
カピバラ:むぅ
チーター:バイトくん
*何故その動物なのかは観客の想像に任せる。


『整形水』を観てルッキズムについてあれそれ考えていた。
そしてこんな会話があった。
そこから今作を思い出した。

『シラノ・ド・ベルジュラック』
もとは戯曲なので、戯曲ふうに...と思って書いてみたものの、壊滅的にセンスがない。というか、この手法で書く意味がない。けれども、もうこれをいつもの感じに書き直すのもめんどくさい。
ゴリ押す事にした。

剣術の達人であり、繊細な詩を綴るシラノ。彼は美しいロクサーヌに恋をしているが、自分の容姿に自信が持てず気持ちを打ち明けられない。
そんな折、ロクサーヌと友人のクリスチャンが惹かれあっている事を知ってしまう上に、クリスチャンから頼み込まれロクサーヌへのラブレターを書くことに...。

ルッキズムについて考えていて、一番最初に思い出したのが今作だと知れたら、実在したシラノ・ド・ベルジュラックは気分を害するだろう。

戯曲内で彼の語る"言葉たち"は圧倒的に美しい。そして甘い。
鑑賞後、役者陣の顔よりも字幕ばかりを思い出す。

『ロミオとジュリエット』を思わせるバルコニーのシーン。
暗闇に紛れて、クリスチャンとして語るシラノの愛にロクサーヌの心が動く。
いやもう、それを言ったらお終いですよという事を言わせてもらうならば。
ロクサーヌ、声で気付かんかい。
とは、思う。
そう思いながら、恋には聴覚や嗅覚も大いに関係しているのだとなった。

街ですれ違った誰かの香水に振り返ったり、その笑い声で後ろにその人がいる、とドキドキしたりしたり。

最初はちょっといけ好かない感じで描かれるシラノ、けれどもロクサーヌのための彼の真摯な姿は切なくいじらしく美しい。
そして普段は雄弁な彼が、ひとたびロクサーヌが話し出すとじっと耳を傾ける姿が印象的だった。
ロクサーヌの声も言葉も聴きたかったのだろうと思う。

またクリスチャンが美男子で頭は空っぽ、と描かれていたのも印象的だった。これもまたルッキズムだよな、と思ったりした。

【エピローグ】
後日、休憩室。
カ「....」
チ「なんスか」
カ「動物だったら何に似てるって言われる?」
チ「チーターは言われたことあるっス」
カ「おけ!」
チ「....何企んでるんスか?」
カ「ん?」
チ「今日帰り缶ビールで」
カ「はい、喜んで」

チーターは勘が良い。
おそらくカピバラにレビューのネタにされている事に気付いている。
むぅ

むぅ