ねまる

ゲキ×シネ 『髑髏城の七人』 Season鳥のねまるのレビュー・感想・評価

4.9
心の底から一番大好きな髑髏城の七人。
初見で観るのはどうかは、正直分からない。

でも、髑髏城の七人という素材を活かしてショーアップさせた鳥髑髏は最高。

歌、踊り、殺陣、笑い。
初めて観た時は拍子抜けというかこんなに変わるものかとびっくりが大きかったんだけど、今となってはこれじゃないと満足出来ない体になってしまった。

キャストの多くが舞台慣れしているというのもあるけれど、それぞれが自分の見せ場を理解して、120%出し切っている。
そして、本人たちが楽しんでいる。
エンタメ髑髏。

☆捨之助as阿部サダヲ
女好きで軽くて強い捨之助のイメージ像と全然違う阿部サダヲ。
侍ではなく、忍者の装いをしていて、信長の影武者の捨と天という設定を廃し、信長の側に仕えた天と蘭と、忍びとして仕えた捨という3構図になっている。
イメージの違う捨を演じていても、阿部サダヲ色を一切損なわず、阿部サダヲがやる笑いだったり、歌だったり、一方で過去を捨てきれていない闇の部分だったりを演じていて流石だなと思った。
普通にやったら、インパクトが強すぎる森山未來、早乙女太一の闇コンビと戦わず共存させて、最後には主人公としてまとめあげるかっこよさ。
色んな人にスポットライトのバトンが渡っていくのが面白い本作は、ちゃんと最後には自分にスポットライトを戻してまとめられる阿部サダヲの技量だなと思いました。

☆天魔王as森山未來
天魔王役を見るまでナメてました、森山未來という俳優を。ごめんなさい。
再び演じるなら歌いたいと言っていたという森山未來。
結果として誘惑のシーンはどの髑髏よりも素晴らしいし、エンターテイメント性を高くした鳥髑髏のクオリティをさらに引き上げるものとなっている。ダンサー森山と殺陣の天才早乙女のダンスと殺陣と歌の共演はこのキャストでしかなし得ない。
それには、忍びの捨には興味がなく、同じく信長に仕え、自分より愛された蘭兵衛への嫉妬に取り憑かれた男への設定変更が大きな意味を持っている。
そして、それだけでは終わらないボケ。さらにボケまで突っ込んでくるかという技量には驚かされますね。イグザクトリーなどイギリス被れのフレーズがまた印象に残るし、キャラとしての個をさらに際立たせているよね。
ボケる、歌う、踊るだけでなく、
どうして蘭兵衛は愛され、自分は愛されないのかという悲しさが垣間見えるシーンもあって、この人一体何役こなすんだ、って仰天ですよ、全く。

☆蘭兵衛as早乙女太一
全世界で誰よりも無界屋蘭兵衛を上手く演じる男であることはたぶん異論ない。
19歳でこの役をやった時からもう、彼のものという確かな正しさがあった。ワカで一人二役から、捨天蘭の3の構図に変わって、その時演じていた早乙女太一に合わせて蘭の立ち位置を上げているから当たり前ではあるんだけど、今回はその正解をさらに進化させてきたから拍手モノ。
19→25になった成長からくる優しさが溢れていて、どこか冷たくクールな蘭よりも暖かさを感じるんだ。
蘭兵衛の中にある、色っぽさ、艶っぽさ、美しさ、強さ、儚さは全て早乙女太一という人間の仕草に備わっていて、彼自身が蘭兵衛を形成していた。
だからこそ、誘惑のシーンが辛い。嘘を付かれていたと分かったシーンが辛い。最期のシーンが辛い。
優しさと暖かさのオレンジ、怨霊と狂気の青、血と悲しさの赤。演じている感情が声で、表情で、仕草で、殺陣で、まるで色のようにまざまざと伝わってくる。
鳥では最年少の彼、バケモノかよ。
ランダムで吐いてたというけど、こんな感情毎日やったら吐くわ。

☆極楽太夫as松雪泰子
テレビでも良く見かける松雪さんだけど、覚悟を決めた時とかの声の出し方に、舞台でも実力のある方なのだなと感じた。
極楽太夫にはやっぱり強さが必要で、その声には色んなことを押し堪えて出す覚悟が宿っていたんだ。
その隠した感情は歌声に乗せて、響いて、過去の苦悩と、それを乗り越えさせてくれた蘭兵衛への確かな愛情が聞こえてきた。
歌に感情を乗せられるのはずるい。
蘭と太夫の関係には色んな解釈があるけど、鳥はたぶん太夫の片想い。
それを分かって、「来ぉおいい!!だぁゆぅうううう!!」をする蘭兵衛はズルい男よ。
鳥の解釈では、蘭の心には1人の男しかいなかった。
このシーンが苦しいのは、どんなに太夫が蘭を想っていたか、私たちはまざまざと見せつけられているから。
楽しい方のショーアップだけではなく、特にこの2人の周りで起こる感情の揺さぶりで、さらに素晴らしい作品に昇華させている。

☆兵庫as福田転球
阿部サダヲの捨之助が他のキャストと比べ年齢が高いので、おっとお、の年齢に兵庫を引き上げたのかもしれないね。
舞台には疎いので、存じ得なかったが、笑いが強い本作だからこそ、ちゃんとボケるのに、兵庫のかっこいい台詞はちゃんと響いて、確かな実力を感じました。
どんなに笑わせたって、締めなきゃいけないところは必要で、最後に締めた阿部サダヲだけではなく、要所要所で各キャラがちゃんと締めてるから物語の展開への感情をコントロールしているんだよね。
天・蘭が遙か上空にあるような構成だからこそ、天に対して
「お前が雑魚だと思っている連中の力見せてやろうじゃねぇか」って台詞が効くの。
ベテランって流石。

☆沙霧as清水葉月
清水さんという女優さんは、知名度が低めの方で、まっさらなイメージで。
とにかく真っ直ぐで、動き回る沙霧を、元気に演じていた印象。
周りのベテラン陣が、個を出して話を盛り上げる分、そこに突っ込んだりはせず、流されたり、話を前に進めたりするの要員としてのバランスはちょうど良かったのかもね。

☆裏切り渡京as粟根まこと
粟根さん、大好きな劇団員。
97年番では蘭兵衛を演じていたんですよね。その時にやっていたそろばんネタを今度は渡京役でセルフパロしているわけです。
髑髏党四天王の1人に右近さんがいるんだけど、冒頭シーンの2人のやりとりだけで可愛い。冒頭から右近さんの歌っていうところがまた良いですよね。
お客さんに気を許しているような。
四天王の1人に仁さん、生駒のカナコさんだったり、劇団員たちのふざけ具合も、新感線経験者や舞台慣れしている人たちの多いキャストならではかなと思います。

☆狸穴次郎衛門as梶原善
善さんは、というか善さんも、何度も新感線に出ている人だから、コミカルにやる具合と、間を理解しているんだと思うんですよね。
だから、狸穴自身に、ショーアップされた要素はないけれど、派手なキャストの中で、キーパーソンの一人を時にコミカルに、時に恐ろしく演じているわけなんですよ。
狸穴って、光と闇の構図分けしちゃうと立ち位置が曖昧になっちゃうキャラで、でも個が立つ鳥髑髏だから彼の複雑な心境も反映されていて良かったですね。

☆贋鉄斎as池田成志
古田新太があの贋鉄をやったから、プレッシャーもあったんではないかと思ったけれど、この男。多分1mmもプレッシャーなんてものを感じてないんじゃないかな。
やりたい放題の贋鉄の工房でのシーンは、アドリブほとんどだろうけど腹がよじれるほど笑わされたし、どのシーンで出てきても100%笑いを取る男だった。
締めてくれる人がいるからの徹底的なボケ。
捨と贋鉄が2人で100人切りするのが定番だけど、贋鉄斎が歌って、みんなで100人切りするのも楽しかったですね。
蘭の最後の後の落ち込み激しいシーンの後に、ただでさえ楽しい100人切りを歌でさらに盛り上げちゃうのが鳥らしくて良いよね。感情を上げて下げてのジェットコースターだよ、まじで。


何度観ても最高のコンテンツです。
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