くまちゃん

処刑人のくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

処刑人(1999年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

彼らは怒りを抱えていた。
マクマナス兄弟は虐待や暴力が蔓延る社会に対して。
ロッコは自分を見下す者たちに対して。
ポール・スメッカーは殺人を繰り返しながらも世論では英雄視されている犯人に対して。
各々の激しい憤怒の炎が緻密に絡み合い感化し、融和していく。

公開された当初はコロンバイン高校銃乱射事件の影響で上映期間や上映館数がかなり限定的だった。
コロンバイン高校銃乱射事件は二人の生徒が銃を乱射し、生徒と教師、犯人含め死者15名、負傷者24名を出した虐殺事件である。
事件の背景としては犯人となった二人の生徒は入学以来日常的にいじめを受けていた。時には同性愛を揶揄するような強い言葉で罵られたりもした。
同じような立場の生徒は他にも存在しており、トレンチコートマフィアなる徒党を組織し、自警団として結束していた。
ちなみにトレンチコートマフィアのリーダーと犯人二人は共通の知人でもあった。

マクマナス兄弟と二人の犯人、
マクマナス兄弟のファッションとトレンチコートマフィア、
マフィアの下っ端として使い走りなロッコといじめ問題、
同性愛を揶揄する言葉を日常的に使うスメッカーなどなど。
事件と映画の共通項をあげれば枚挙にいとまがない。公開に影響が出るのも仕方があるまい。

もともとミラマックスと契約したトロイ・ダフィーはタランティーノの後継者としてデビューするはずだった。
今作はスタイリッシュな外連味に溢れ、まさしくクエンティン・タランティーノ作品を彷彿とさせる。

体技ではなく映像で魅せるアクションとギャグのように積み上がる死体の山。
酒と煙草と硝煙が男たちの魅力を底上げしている。
むしろ男のための映画と言っても過言ではない。今作には不自然なほど女性が登場しない。あえて述べればロッコに猫を殺された娼婦ぐらいだろう。

スメッカー捜査官は同性愛を揶揄し、他人を食ってかかる態度をとるが、
スメッカー自身同性愛の傾向がある。
裸の男性と床につき、女装姿も板についていた。

マクマナス兄弟も家族愛を超越した関係性に見え、友のようで恋人のようにも見える。
だが見ている光景は若干の齟齬があるため衝突することもある。
その距離感が標的の頭蓋内で十字を切り、彼らの象徴となっている。

ブロンソンやランボーといった固有名詞に監督の趣味が色濃く表れている。
自警団が悪しきと戦うは「狼よさらば」であり、虐殺とも取れる殺害場面は「ランボー」のようでもある。

街頭インタビューのようなラストは洒落が効いている。賛否両論なのも◎。

決して趣味の良い作品ではないが、悪趣味の中にも芸術的価値があると強く訴えている映画と言える。
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