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TENET テネットのmのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
4.0
難解とも言えるが無駄が多い。……とも言えないのが、やはりノーランと思った作品。カオスからカオスを生み出し、それを大衆向け(マニアックではあるが)に変えてしまう素晴らしさ。

昨年、コロナ禍で上映された今作。家族構成や私に関わる人たちのおかげで〈無責任〉な行動が出来ず、映画館で観ることが出来なかった作品。
ちょうど『インセプション』も公開していたので何十回と観てきたそれも観たかったが、断念。これだけはコロナに殺意は湧いた。いや、いまでも沸いているが。

クリストファー・ノーラン監督は大好きなので、出来るだけ情報を入れず鑑賞。
今作は、エントロピーなどの影響を受けているぶん物理の理解がなければならない。と言いたいが、私はこれっぽっちもそちらに精通していないので脳内ではタイムトラベルという今まで観てきたSF作品がフル稼働。

悪役であるセイター(ケネス・ブラナーさん)は回転ドアを操り過去・未来に自由に行き来することができる。
そしてある目的を果たしたいと考えるセイターを食い止め、未来を変えるため名もなき男(ジョン・デヴィッド・ワシントンさん)は回転ドアを扱う。人類滅亡の危機をどう食い止められるのか、といったストーリー。

エントロピーなどについて、理解出来ていれば尚のこと面白いだろうが、今までの既存のSF作品を理解していれば、話についていくことは可能だと思う。
「ここでこいつが時空を弄ったからこの映像・この結末になるのね。で、こいつら逆行してるけどこっちは順行するから…。こいつはこの目的で動いていて…」といった感じ。


Who
When
What
Why
Where

の5Wを整理できれば…。セイターやキャットの動機は利己的だから分かり易い。

ただ、少し気になるのは今作は枝葉が多い。
登場人物が多いのと、登場人物の背景が設定だけになっていること。
顕著だったのが、エリザベス・デビッキさんが演じられたキャット。
キャットとセイターの関係性、絵画の鑑定士という設定は何故に必要だった?別にセイターがキャットに愛憎を向けるのは構わないが、設定が設定としてしか成り立っていなくもう少し無駄を排除してもいいと思う。

また、登場人物が多い。
『インセプション』はみんながそれぞれに役割がありそれなりに活躍しているが、今作、逆行銃を説明したバーバラ(クレマンス・ポエジーさん)、情報提供を行ったマイケル・クロズビー卿(マイケル・ケインさん)など正直要らない人が多い。
(マイケル・ケインさんは監督のお気に入りだし、どうやらスパイ映画へのオマージュを含んでいるから仕方がないのか笑)

そうして枝葉を落とした時に見えてくるのは、単純に今作はスパイ映画だということ。秘密裏に行動し、相手に出し抜かれ、出し抜く。案外難解そうに見えて難解ではないのでは?
難解というのとややこしいというのは違うと思う。また本筋に影響のないところで頭を使わせるのも難解とは言いたくない。

ここからはエントロピーについて話したい。これはさ、やっぱり凄いよね。監督のアイデアってえげつないよね。
過去と未来を行き来するというSF的要素を物理に置き換え、それを映像美にしていく。というより、それこそ鶏が先か卵が先かになるんだけど、エントロピーという考えがあってSF作品が生まれたのか、SF作品という娯楽があってから理論が追いついたのか。どちらなんだろう。謎だ。
時間の順行、逆行だけでなく[原因→結果]を[結果→原因]としたり随所に見られる凡人には到達することが出来ないアイデア。
終盤のアルゴリズムを見つけ出す戦地は、混沌に混沌をぶち込んだような仕上がり。なのに説得力があり、映像美でもある。

若干、セイターの動機付けがアホか!と言いたくなるものだったり、キャットの行動が軽薄だったり、逆行しているときに焼けると凍死するといった設定(逆行していても燃えるということに変わりはないのでは?)といったエントロピーを拡大解釈している点が多々あり、それが気になる。まぁ、それはフィクションの中で起こる監督の演出であり、魅力なのでそれを面白いと取るかは人それぞれ。私は面白い反面納得いかん反面かな。
ただ、逆行中は息が出来ないというのには痺れた。

ラストは監督らしくファンに謎を残して終わらせる。
ニール(ロバート・パティンソンさん)の存在。私は有り説に賭けたいかな。

どうにも納得出来ない点や、『インセプション』より映像美に欠ける点があったりとそんなにハマらなかった
だけど、やはり混沌を生み出しそれを整理し伝えることのできる監督には頭が下がる。
ニールの吹き替え声優さんが櫻井孝宏さんなのでもう一度観たいと思う。

追記
私が指摘したところ「そんなの気にするな」と言っている方が沢山いて反省笑
そうやって言わせてしまう監督すげぇな笑
『メメント』『プレステージ』『インセプション』は今作よりもう少しそういったアイデア任せではなかった気がするのさ…。
あ!間違えて欲しくないのは、私はノーラン監督のファンだということ!!!

ストーリー : ★★★★☆
映像 : ★★★★☆
設定 : ★★★★☆
キャスト: ★★★☆☆
メッセージ性 : ☆☆☆☆☆
感情移入・共感 : ☆☆☆☆☆

cc/ミッション
 〈時間〉から脱出せよ。
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