ちゅう

TENET テネットのちゅうのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
4.3
”起こったことは仕方がない
だけど行動しない理由にはならない”


非常に運命論的、決定論的な物語だと感じた。


普通のタイムトラベルものだと、過去に戻って過去を変えることで現在を変えるというものが一般的だと思う。
なぜこういう話が一般的かと言えば、現在を変えれば未来が変わるという——今努力すれば将来お金持ちになれる的な——進歩的な考え方に合致するからだ。

だけどTENETでは時間を逆行して過去に戻ったとしても、そこで行われる行動は時間を順行していたときに観測したものとまったく一緒で、過去を改変しない。
ということは、今ある現在から見るとすでに行われてしまっていることを過去に戻って行っていることになる。
過去で達成しようとしている”目的”があって、それに向けて自由に行動しているのだが、その行動は現在から見るとすでに行われたことなのだ。
これを過去を現在と読み替え、現在を未来と読み替えると、すでに決定している未来に向かって現在を自由に(というより自由だと思って)生きていることになる。
これって決定論そのものだと思う。

だったら、全てが決定しているというのなら、わざわざ苦労して何かをしなくてもいいように思われるかもしれない。
けれど、この物語はその堕落をそそのかすニヒリズムに対抗している。
それが上記のセリフ”起こったことは仕方がない だけど行動しない理由にはならない”で、これがこの物語の核となっている。
運命は何もしなければ訪れないし、たとえ運命として全てが決まっていたとしてもその一瞬その一瞬を精一杯生きなくてはならない、ということだ。
そしてこれこそがTENET(信条)なのだろうと思った。


逆行と順行の時間の矢が、複雑に絡まり合いながら進んでいく。
その複雑さに眩暈をおこして、どこに運ばれるのか予測がつかなくなる。
ただ運命が、円環状にくるくると回っている。
ちゅう

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