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TENET テネットのtsuraのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
4.2
今回の時間の遡行というテーマにひとたび没入すると、世界が未視感に苛まれるくらいに通常の感覚が揺さぶられる。

クリストファーノーラン監督の作品を鑑賞するたび味わう感覚だ。

どうにも彼の作品には毎度驚かされるが今回もその例に漏れず幾度と自分の予想を良い意味で裏切り圧倒された。
(このニュアンスは関西人の方には理解頂けるニュアンスかと思うが、吉本新喜劇でいうところの芸人のボケにズッコケるあの"くだり"をこの作品に例えれば、何回ひっくり返ったらいいんだ!)

ノーラン監督にしては、主人公の感情移入の難しいというかかなり希薄な作品だった。(否、それをこの作品が観客に求めてるいるかは別)どうも最初のプロットが世界中を舞台にしたスパイアクションである事から、主人公がどういった背景を背負い暗躍するのか気になっていたが、導入部分でサクッと展開してやや強引にそのレールに乗せてしまい冒頭の描き方にも疑問符が色濃いまま、後はご存知の怒涛の展開。

この2時間半というやや長尺でさえ、その色々なものを詰め込むには矢張り難しかった様に思えた。

但しまさか一つの解として?
あんな展開からの流れで存在証明してしまうんだから…まぁ彼の脳内では何が組立てられているのだろうかと最早、驚きを禁じ得ない。

映画のストーリーについては触れずに箇条書きながら思った事を書いてみた。

・ノーランはいよいよ"時間"の本質と向き合う映画に着手し、遂にそのキャリア集大成となるアクション大作を完成させた感

・コロナパンデミックの影響はあるにせよ、北米興業が芳しく無いのは難解過ぎるストーリーがアメリカの一般客の足を遠ざけてはいないか

・上記に因ってワーナーが彼の次回作の予算を削減しないか心配

・キップ・ソーンが「インターステラー」
に引き続いての登板で、作品のリアリズムが相当なレベルに到達した


・エントロピー増大の法則をまさかこのアプローチで展開するとは…


・ジョン・デヴィッド・ワシントンはカリスマ性のある俳優である事の証左を本作でも示した(スーツ姿がまた凛々しい)


・いずれにしてもエリザベス・デビッキが最高に美し過ぎて、映画の複雑なストーリー追い掛ける前に彼女に見惚れてしまいストーリーに着いて行けない
(映画を見終えて数日経つのにまた彼女の美しさに腑抜けです)


ストーリーの複雑性は彼の監督作品では群を抜いていた様に思うし、単純にその複雑性は脳には寧ろ心地よくて(推理小説を読んだ様な読後感を終始感じる)また映画館に答え合わせをしに行きたくなる。

でもしかし。

冒頭で軽く触れたがこの映画について、キャラクター夫々の考察が不足して感情移入やストーリーの深みを感じれないというレビューを幾つか読んだわけだが、これについては肯定派である。
寧ろこの監督史上最もその辺の描写が簡素化されていると思う。
正直、名もない男の存在証明は為されただろうが彼が主役の話であって彼にまつわる話のくだりは少ない。

そういうところを鑑みるとこの作品はもっと拡張性のある物語で、それこそ続編という可能性も示唆しているのではと勘繰ってしまう。

いずれにせよ、IMAXで体感出来得る最高の映画の一つではあると思うし、流れに身を任せても全く問題無いし、小説の様に読み耽って行間に隠された真実探しの遡行を行うのも乙である。


ただし、その時はエリザベス・デビッキの美貌に惑わされぬよう。(私はスクリーン越しに彼女の美しさに溺れたい)

あと追記的な書込みだが、個人的にはノーランはそろそろ"時間"という制約から解放されたストーリーと向き合って欲しい。
もっと例えば歴史物や彼の脚本の旨味が引き出されそうな駆け引きの多いドラマとか…スクリーン映えする作品とは一線を画す様なストーリーを手掛けてみても、それはそれで良さそう。



でもまぁ兎にも角にもコロナが世界を巻き込んで、未だ多方面で混乱きたす最中でも劇場リリースに漕ぎ着けた方々のその執念に勝るものは無い。

その方々に最大の敬意を示しつつ、今回の映画鑑賞は、コロナになんか負けず映画、映画館がひとりひとりの心に光を灯す存在であると信じたくなる作品でもあった。
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