しおまめ

空の青さを知る人よのしおまめのレビュー・感想・評価

空の青さを知る人よ(2019年製作の映画)
3.8
脚本:岡田麿里。
自分は岡田麿里さんの初監督作品「さよならの朝に約束の花を飾ろう(さよ朝)」しか観ておらず、
今回の長井龍雪監督とのコンビで製作された「あの花」は未視聴。
なので、もしかしたら今作の特徴は共通のものなのかもしれませんが、「さよ朝」 でも感じた違和感が今作でも感じてしまい、
物語のミステリアスな部分やエモーショナルな部分に感動する一方で、その違和感が鼻についてノレない部分もありました。


最初に「おっ」となったのは、主題歌があいみょんであること。
超絶ヒットしたマリーゴールド同様に彼女のキャッチーな歌は主題歌「空の青さを知る人よ」でもいかんなく発揮されており、歌詞も本編と関係があるもので非常に親和性が高い。
劇中曲としても使用されており、キャラクターたちとの関係を表すにもってこいの曲。
加えて今作の登場人物たちがバンドに勤しむ青春真っ盛りな歳なところも上手い。必然性があり、あいみょんほどのメジャーなアーティストであるにも関わらず楽曲が浮いていない。

物語も二転三転と主人公の気持ちがどうしようもなく変わってしまうところが切ない。
あらすじを一読すると単純なタイムスリップもののように感じるかもしれないけども、単純なタイムスリップものとは違う珍妙な状況下というのを説明しようとはせず、粛々とキャラクターたちの物言わぬ心象を描いているため、ファンタジーな要素が文学作品のような心象を表すものになっているように見える。

“出れないんじゃなくて出たくない。”

特に主人公以外のキャラクターたちは常に「口ではそう言ってるが・・・」という本音と建前が複雑に交錯しており、それを考えながら観るとより切なさが増す。


そんな切なさを強調させる要素のひとつは、今作の季節が秋であること。
薄着でもなければ厚着でもない。夏のホットな関係育む季節でもなければ、冬のブルーな関係をもたらしてしまうものでもない。
しかし紅葉が散るように、実り咲いた事実もやがて散る運命が訪れる、出会いと別れが共存しているかのような季節。物語の結末もまさしく“赤く染まった”秋空のように喜ばしくも切ないものでした。
そのためか、背景美術が恐ろしいほどリアル・・・というか写真そのものといっても過言ではないほど。
新海誠監督のような光を強調したものではない、ホントに写真のような背景なのは恐らくこの秋という季節を強調させる意図があったからだと思います。



話も曲もキャッチーなので見やすい作品ではあったんですが、
あいみょんの「空の青さを知る人よ」がエンディング曲ではないところに違和感を覚えました。
劇中曲としても挿入歌としても使われてますが、劇中曲に使った理由というのがあまりない。
てっきりこの曲はある人物に継承され歌うようになるというイメージを持たせるためだと思ったんですが・・・出し惜しみしない挿入歌での使用でガッカリ。
しかもその挿入歌として使われたシーンがメチャクチャで、いきなり今年公開の「天気の子」みたいなことやり始めて「えっ、なんで?」と興醒め。特に映像的カタルシスもありませんでした。バックであいみょん掛かってるのに。
しかも歌詞と台詞がぶつかってしまっていて台詞がかき消され気味。何故instrumentalじゃなかったのか疑問が残る。
さらに高校生らが戸惑いも恥じらいもなく性の匂いを当たり前のように醸し出すあたりが気持ち悪く、いかにも「イマドキのコーコーセーってこんなんでしょ?」と年寄りが書いたような台詞が不自然。

これらの違和感が、つまるところ「さよ朝」にもあった違和感。ようは岡田麿里さんの変なところ。
物語的に大事な要素であるはずのものがあまり機能しないで別の形に差し替えられてしまう。「さよ朝」で言えばヒビオルが序盤しか機能しなかったように。
そして性の匂いがまるで日常茶飯事かのような軽さで年齢関係なく描いてしまうこと。昨今未成年者との関係を持って逮捕されてしまう芸能人が報道されているからか、妙に軽い。
疑いかけるシーンで「何故?」とか「理由を言え」とか飛び越えて「あなたそんな関係をもつなんてサイテー」とか。いやもっと順序よく話そうよと。
かと思えばそのことの話がメインになると頬を赤らめたりして、よくわからないものに。

そして、これは今後のアニメ業界の課題でもあると思うんですが・・・写真の如くリアルな背景の中で動くデフォルメされた2Dキャラクターたちという違和感がこの作品で本格的に露呈した気がします。
2016年の「君の名は。」以降に作られた作品が今年から公開され始めているせいか、背景美術も飛躍したアニメーション表現も、かなり意識した作りになっているようにも。
楽曲についても特に今年は「プロメア」「きみの波にのりたい」「HELLO WORLD」と使っているものが沢山ありました。前二作は巧みに使えてた印象がありますが・・・。
確かにエンタメとしての盛り上がる効果的かつわかりやすいものなんですが、それにしたってもっと丁寧に使って欲しかったですし、描かれた内容に対して上映時間二時間というのはやはり長め。かの作品は一時間半というテンポだったのにそこは意識しないのか・・・と。



ともあれ、秋空に相応しい切なく不思議な物語はとても魅力的。
売れっ子、田中将賀さんのキャラクターデザインも媚びすぎない丁度よいものになっていてイイ。
バンドを物語に置いているためか、演奏描写や音に関しては見応えあるものに仕上がっており、音楽やっている人は気になるところが多いと思います。
・・・・“あいあお”ってニックネーム、いいな。
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