むらむら

イップ・マン 完結のむらむらのレビュー・感想・評価

イップ・マン 完結(2019年製作の映画)
5.0
イップマンシリーズ有終の美を飾る作品。

俺、シリーズ前3作だけでなく、アンソニー・ウォン主演の「イップマン最終章」(シブい!)や「イップ・マン外伝 マスターZ」(カッコいい!けどイップマンは一ミリも関係ない!)まで観ているので、期待値は最高潮。

昨晩は勿論、我が家のボロいコートハンガーで、ポクポクと詠春拳の稽古をして、気分を盛り上げてから新宿武蔵野館まで歩いていったぜ。

イップマンが中国/香港を飛び出て、アメリカで大暴れするこの完結編は、そんな俺の期待感を裏切ることのない、素晴らしい出来。ビバ、イップマン!

イップマンは「男はつらいよ」とか「釣りバカ日誌」のように、お約束の多い映画。そのお約束を「掟」と捉えて、以下に列挙しつつ、皆さんにイップマンワールドの魅力を、少しでも伝えたいと思う。

【イップマンの掟その1:礼節を重んじる】

まずは冒頭のシーン。香港に住むイップマンのところに、弟子である米国在住のブルース・リーの命を受けて、黒人がやってくる。

「(英語で)ヘイ! 師匠の師匠! あなたに、アメリカ行きのチケットを持ってきました!」

えー、なんで郵送しないの? しかも英語しか喋れない黒人を使者として送ってどーすんの。

そんな疑問を挟む奴には、俺が詠春拳を百発叩き込んでやりたい。

イップマンワールドでは、手紙は持参するもの。礼節と仁義が命なのだ。

ちなみに、この黒人、言葉が通じないのに苛立って、いきなりイップマン道場の弟子と戦闘し始める。お前、自分勝手すぎるだろ……。

そんで、渡米を渋ってたイップマンに、自身の末期癌が判明。息子の留学先を探すため、サンフランシスコへ旅立つのだ。

【イップマンの掟その2:とにかく全員、拳法の達人】

イップマンワールドの掟に、とにかく出る人出る人、異常に格闘能力が高い、というのがある。
今回も、その掟は健在。

サンフランシスコに降り立ったイップマンは、まず現地の中国移民を仕切る中華協会へ向かう。この中華協会の幹部が全員、揃いも揃って拳法の達人。円卓に座ったイップマンに、会長が幹部たちを紹介するシーン。

「こちら○○拳の××さん」
「あちら△△拳の□□さん」
「私は、太極拳の達人です」

えーっ、ここ少林寺かよ!? ってくらい、拳法の達人だらけ。こんな連中が大挙して移民してきたら、そりゃアメリカ人も警戒するっつーの。

だが、これもイップマンワールドのお約束なので、「そんなワケねーだろ」って苦笑する奴は……(以下略)。
(追記:これ、元々訪問したのが、中華「拳法」協会だそうです)

【イップマンの掟その3:イップマンあるところにトラブルあり】

名探偵コナンかイップマンか、と言われるくらい、イップマンの行くところにトラブルあり。

今回も、ふらふら歩いてるイップマンの目の前で虐められているのは、偶然にも中華協会会長の一人娘なのだ。他にも、警察いったらイジメっ子のお父さんが偶然勤務していたり、海兵隊にイップマンの愛弟子がいたり、「サンフランシスコって、半径100mくらいの街だっけ?」と誤解したくなるくらい、偶然とトラブルに遭遇する。

ちなみに、イップマンの映画はだいたい、格闘してるかお茶呑んでるかのシーンが9割なので、お茶シーンも楽しみにして観てほしい。イップマン、めっちゃ美味しそうにお茶呑むので、俺的にはイップマンシリーズ、毎回「お茶テロ」映画的な印象ある。

【イップマンの掟その4:困ったときのブルース・リー】

イップマンはブルース・リーの師匠で有名なこともあり、これまでもチラチラとブルース・リー(チャン・クォックワン)は出ては、イップマンに興味なかった俺みたいな馬鹿にアピールしていた。ただし、それはちょい役でしかなく、ブルース・リーに「アチョー!」的な見せ場はなかった。

だが、今回ついに、満を持して、ブルース・リーが大活躍。最高の格闘シーンを披露してくれる。タランティーノ、この感想読んでるか? 読んでたらいますぐ「イップマン 完結編」を観にいけや。

ブルース・リーの戦う相手は、白人空手家。しかも、この空手家、形勢不利になると、懐から武器を持ち出してくるのだが、それがなんと……ヌンチャク。

「あーっ! それ、絶対、ブルース・リーの前で、絶対に出しちゃダメなヤツ!」

と、俺がスクリーンに叫ぶ間もなく、「鴨がネギをしょってきた」的に、あっけなくヌンチャクはブルース・リーによって奪われ、案の定、空手家はボコボコに。このシーンは滅茶苦茶格好良かった。この空手家、「鬼に金棒、ブルース・リーにヌンチャク」って諺を知らなかったのかいな。

【イップマンの掟その5:格闘はあくまで紳士的に】

敵が青龍刀ならこちらも青龍刀、棍なら棍と、基本的に相手に合わせてイップマンは戦ってくれる。これは相手方も同じで、集団VSイップマンの場合は、一人ずつ順番にイップマンへと向かっていくし、拳銃みたいな飛び道具も使わない。

今回はそれが極められていて、ほぼ、戦闘シーンは1対1。これまでにも、サモハンとの丸テーブル上での死闘とか、マイク・タイソンとの重量戦とか、幾多の名勝負があったが、今回、米国海兵隊の鬼軍曹(スコット・アドキンス)とは、とてもオーソドックスな技対技の戦いを見せてくれる。大団円だからこそ、奇をてらわず、詠春拳の様式美を極限まで堪能させてくれる素晴らしい演出。卑怯な人物が一人もいない、優しいイップマンの世界は最高だと改めて思わされる俺であった。

あと格闘ではないが、「父ちゃんが癌だ」ってのを、電話で聞いて、息子にそのまま伝えるオッサン、嘘偽りのない優しい世界だからといって、ストレートすぎるだろ……。

・まとめ

というわけで、「掟」という形でイップマンワールドを紹介してきたが、俺の拙い感想で、ちょっとでもイップマンに興味を持ったら、是非劇場に足を運んでほしい(せめて前作の「イップマン 継承」は事前に観ておこう!)。

そしてラスト5分、これまでのシリーズを追いかけてきたファンを完全に泣かせにくる演出。

俺も思わず男泣きしてしまい、家に帰ってから、再びコートハンガーに向かってポクポクしてしまった。

これまで素晴らしい戦いをありがとうイップマン。次は天国でサノスと戦ってください!

もしくは盲目になったイップマンが、宇宙で悪の帝国と戦う話、とかでも歓迎です! ぜひ続編を!




【ちょっと余談】この映画のイップマン、(俺の記憶にある限り)広東語しか喋らない。相手が北京語を喋ってるのに、イップマンは広東語で返す、みたいなシーンが多々あって、「これが中国人の普通の会話なの!?」って驚いた。北京語と広東語で会話するって普通のことなんだろうか……詳しい人いたら教えてください。
むらむら

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