yawara

ひとよのyawaraのレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
4.5
15年間両親なしに暮らしてきた子どもたちと、その元へ戻った母親。様々な出来事を通して彼らの間にある複雑な感情を描き出す。

終始落ち着いたトーンで繰り広げられる、そのウィットに富んだリアルな人間模様が絶妙。演者の存在感も配役もあまりに素晴らしい。もちろん演技はとんでもなく良い。多様な人柄が描かれており、作品内にうまく社会が形成されているため、強く引き込まれる。物語の大筋はもちろん軽い横道のような描写も「そこにいる」と感じさせている。

子どもたちが苛酷な日々を過ごしたのを思うと、事に及んだ母親に対してやむなしというある種の共感がある。とはいえ、父親に受けた暴力と母親が殺人犯であるという事実は子どもたちに禍根を残す。母親は非常に思慮深いが、あまり積極的に言葉を交わす人柄でなく、それゆえにすれ違いのある人も少なくなかったのではないかと思う。
一方で事件はすでに過去の物であり、取り返しがつかない。文字通り両親が目の前からいなくなった子どもたちは、形はどうあれ、それぞれがしっかりと地に足をつけているのである。自分が彼らと同じ境遇だったとして、果たしてどう生きられただろうか?と考えさせられた。

母親が殺人に至った経緯は詳細には描かれてはいない。道を外れてでもそうせざるを得なかったというのがほとんどの犯罪で云えるのだろうが、思慮深い彼女の人柄を見ていると、どんなに辛い決断だったのだろうかと胸が痛くなる。
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