むーしゅ

スケアリーストーリーズ 怖い本のむーしゅのレビュー・感想・評価

3.2
 Alvin Schwartzの同名児童書をGuillermo del Toroが原案及びプロデューサーとして映画化した作品。原作本は全米で700万部を越えるベストセラーで、作品の過激描写に学校図書館に置くことの禁止を求める世論が高まったほどの有名本です。

・オムニバスのような物語
 本作は原作が短編集ということもあり、「ハロウィンの日に侵入した廃墟で見つけた本を持ち帰ったことにより、事件に巻き込まれていく」という大きな流れはあるものの、基本的にはそれぞれの子供達が不幸な目にあう物語の主人公であるという構成をとっています。そのため、それぞれに襲いかかるモンスターも異なっており、さっきの話の方が怖かったかな、とか冷静に考えながら楽しむことができるような作品です。またそれぞれの物語が怖いかというと全くそんなことはなく、日本でいうと学校の階段とか七不思議みたいなレベル感、まさしく児童書レベルの怖さなんですね。ホラー映画であるにも関わらず、作品への没入感を利用せず軽さすら感じる作品です。

・挿絵に忠実なモンスター達
 「シェイプ・オブ・ウォーター」の監督であるGuillermo del Toroが関わっている時点で、どんなモンスターが出てくるのかという期待しかありませんが、本作は原作の挿絵を担当しているStephen Gammellのイラストに忠実なモンスターが多数登場します。もちろん不気味なモンスターもいるんですが、中にはちょっと笑えるモンスターもいたりと多様な形態なのですが、どのモンスターも再現度が素晴らしいですね。Stephen Gammellのスケッチ画を所有するほどのファンだというGuillermo del Toro ですが、「シェイプ・オブ・ウォーター」と同様にCGじゃなくきぐるみを着た俳優が演じるなんて、彼のクリーチャー愛をまたしても感じてしまうわけです。
 中でも後半に出てくるジャングリーマンというモンスターは必見ですね。人間離れをした動きをするためさすがにCGだと思ったのですが、人が入っているとのことで調べてみたらなんと中身はTroy Jamesだったそうで納得です。Troy JamesといえばAmerica's Got Talentで全身の関節が外れていくかのようなダンスで話題をさらった人物。あの時のパフォーマンスを見れば今回のジャングリーマンの動きなんてむしろ簡単だったのではないかと思うほどであり、彼の熱演には何か賞をあげたくなりますね。ちなみにこのモンスターは原作には頭部のイラストしか出ておらず体部分の造形は映画オリジナルでつくられています。そんなところもGuillermo del Toroのこだわりを感じざるを得ません。

 さて冒頭の通り本作は児童書が原作ですが子供向け作品というわけでもないんです。というのもこの作品は舞台が1968年なんですね。冒頭だけ昔の回想でその後すぐに「現在」みたいなスタートをする映画はよくありますが、本作は最後まで昔のままであり、友達同士はトランシーバーで会話をしたりしています。昔の名作映画を見るならまだ良いですが、現代の子供が50年前の時代感で描かれた恐怖演出を純粋に楽しむでしょうか。もし子供向けに作るならむしろ現代に置き換えた方がよかったのではないですかね。
 では誰のための作品なのかというと、これは完全にGuillermo del Toroと同じオタク層向けだと言えます。挿絵で止まったままだったモンスターたちに命を吹き込むことによりオタク層ニーズを満たす、そんな大人の悪ふざけを見せられたような作品です。 そのため怖さを求めるというよりは、午後のロードショーで流れているのを仕事しながら見るくらいがちょうど良いのではないか、と思う作品でした。そういう意味では映画館で見なくてもいいな、というのが感想ですね。
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