平成2年の男

9人の翻訳家 囚われたベストセラーの平成2年の男のレビュー・感想・評価

2.0
・上質な小説を読んだかのような?冗談はやめていただきたい。こんな杜撰なプロットがミステリーとして認められて良いはずがない。ミステリーは1にプロット、2にプロット、3にプロットだ。

・物語の第一幕の終わりに十人の登場人物は焦ることになる。なぜ彼らは焦ったのか? 説明できる視聴者はどのくらいいるのだろう。

・焦った理由を説明できる視聴者は、本作を高く評価しないはずだ。なぜなら、焦るに値する背景であると積極的に解釈することに、困難さを覚えないはずがないからだ。

・本格ミステリーにドラマ性は不要とされているが、本作はその匙加減を間違えてしまった。登場人物、行動の誘因、筋の展開、盛り場の設定あらゆるところに、シナリオの恣意的な打算が臭う。強い不快感を覚えた。

・人間が決定的な行動を取るときは、動機に「真実という誤謬」がたわめられてなければならない。本作にはそれが一切ない。

・神は細部に宿る。翻訳者を題材にするなら翻訳という作業ののっぴきなら無さをまず描写しないとリアリティが損なわれる。翻訳とは、言語の限界に挑む過酷な作業だ。1ヶ月や2ヶ月で終わるような生易しい作業ではない。本作の脚本家も作家であるからには、端くれとして、物を書く仕事への敬意を払っていただきたかった。

・ラストの折りたたみ方は鮮やかであった。しかし、シナリオの都合でしかないディテールを幾層にも重ねた上に用意された結末にどれほどの価値があるだろう。

・中途半端な文学理論を語るシーンには目を瞑ろう。文学チックな雰囲気を醸し出すためのオブセッションの数々は、文学側が負うべき責任である。