櫻イミト

サスペリア PART2 完全版の櫻イミトのレビュー・感想・評価

サスペリア PART2 完全版(1975年製作の映画)
4.1
説明不要な超有名作。原題「PROFONDO ROSSO(深い赤)」。邦題は興行的事情で付けられたもので内容は「サスペリア」(1977)とまるで関係ない。脚本はフェリーニ監督作を何本も手掛けているベルナルディーノ・ザッポーニ。音楽はゴブリン。※完全版は、劇場公開版で削除された20分を追加してある。

【あらすじ】
あるクリスマスの夜、子供歌唱が流れる部屋で殺人が行われる・・・。ある心霊学会。講演中の霊能力者ヘルガが突如悲鳴を上げる。聴衆の中に殺人者の邪気を感じたのだという。その晩ヘルガはマンションの自室で何者かに包丁で惨殺される。階下の広場ではピアニストのマーク(デヴィッド・ヘミングス)と友人カルロが談笑していたが、マークが窓越しに殺人シーンを目撃。現場へと駆け込んだ時には犯人は見当たらなかった。警察の現場検証に立ち会ったマークは女性記者ジャンナ(ダリア・ニコロディ)の取材を受け、二人で真相を探り始める。。。

劇場公開版を観たのが十数年前だったので、初鑑賞のように新鮮に観ることができた。レストアされた映像も非常に鮮明で美しい。

ミステリーというよりもスラッシャー系のジャッロと感じた。ビジュアル最強の一本と言える。ゴブリンの音楽もインパクトが強く映画にマッチしている。

アイラインの眼玉アップ、首を吊った赤ちゃん人形、廊下に大量に飾られた不気味な絵、子供の描いた殺人絵画、黒の皮手袋、本作のアイコンとなった不気味な自動機械人形。これら数々の小道具とフェティッシュなアップ撮影が抜群に良い。そして各シーンとも撮影はスタイリッシュで演出も面白い。赤の心霊学会会場。大きな彫像を挟んだ夜の会話シーン。幽霊屋敷への危険な侵入と隠された謎。そしてバラエティに富んだ4つの(痛そうな)殺人シーン。始終、次々に面白い画が出現するので、眺めているだけで満足感がある。

ただしミステリーとして話を追うと、理屈が通らないことや、ジャッロ特有のサイコパス系エンドがあるため失望してしまう。解明された殺人動機(なぜ?)は弱く、手段(どうやって?)には矛盾がある。例えば、作家アマンダの元へ主人公マークが向かったのを知るのは女性記者ジャンナだけであり第三者が知ることはありえない。この件をはじめ謎解きのポイントとなる「マークの動きが筒抜け」の理由は宙ぶらりんで終幕するのだ。

ちなみに本作のカギとなる殺人現場から“無くなった絵”について、自分の場合は最初に観た時から認識できたので、犯人は最初から解ってしまった。その後の本編でフィルム・ノワールに良くある匂わせががあったため、共犯の可能性も考えながら鑑賞したがやはりミス・リードだった。

調べてみると本作は、アルジェント監督が考え出した独創的な殺害シーンをザッポーニが繋ぎ合わせるようにして書かれたのだという。つまり殺害シーンを見せることが主題で、合間にストーリーがある=スラッシャー式の作りということ。なのでミステリー要素は繋ぎの手段として受け止め、深く考えずに観るのがベターと思われる。

ジャッロ映画の重要要素“殺人の美学”を極めたジャンルを代表する一本。

※女性記者を演じたダリア・ニコロディはアルジェント監督の妻

※夜の街の画作りは、アメリカ画家エドワード・ホッパーの「ナイトホークス」(1942)を参考にしている。

※アルジェント監督はアントニオーニ監督の「欲望」(1967)が好きだったことから、同作主演のデヴィッド・ヘミングスをブッキングした。本作の、殺人現場に居合わせた主人公が重要なことを見落としている設定も、同作をベースにしたとのこと。

※壁を削って下の絵を見つけ出す演出は同年のイタリアンホラー「ナイトチャイルド」(1975)でも用いられている。
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