むらむら

サスペリア PART2 完全版のむらむらのレビュー・感想・評価

サスペリア PART2 完全版(1975年製作の映画)
5.0
「サイコスリラー!深紅の秘伝説」と副題をつけたくなる傑作。俺は独身だけど、子供がいたら「子供に見せたくない映画」の第一位にランクさせたい。

そして、俺自身が子供の頃に観てなくて良かった……と、「寅さん」以外の映画を観せたがらなかった父親に心から感謝した。本気でトラウマになる映画であり、これに比べれば「クレヨンしんちゃん」なんて子供騙し(まぁ、もともと子供向けですけど)。

あ、ちなみに「ループ」を観てて、ハンガリーの風景が素敵だったので、そんな素敵な風景の映画は無いかと思ってイタリアで撮られたこの作品を鑑賞しました。

「サスペリア」とは監督が同じダリオ・アルジェントであること以外、何の関係もなく、日本の配給会社が「サスペリア」がヒットしたので安易に「パート2」と付けたとか。製作年もこちらの方が早いです。

以下、本題に戻ります。

主人公のピアニスト・マークは、偶然、欧州超心霊学会に所属する超能力者が殺される現場を目撃。殺人犯に狙われながら、ジャーナリストの女性と共に事件を探っていく、という素人探偵もの。

なのだが、これでもかとばかりに大量に詰め込まれた演出が、この作品を、単なるサイコスリラー以上のものにしている。

共産党員かってくらい全編に渡って赤を基調とした色使い。

ピアニストや超能力研究家、ゲイカップル、不審な親子、呪われた廃屋、などなど、「原作は横溝正史?」と誤解してしまうほど、不必要なケレン味の数々。

加えて犯人の造形。黒手袋に厚手のトレンチコートを羽織って身を隠し、謎の連続殺人を繰り広げていく。この東京の糞暑い8月中旬に観ると、観ているだけで不快なのだが、そんな姿のまま、不法侵入や殺人で、八面六臂の活躍をしてくれる。東京なら熱中症で倒れてるよー。

特に不法侵入は、「お前忍者かよ」ってくらい、この犯人、マメにだいたいのシーンで聞き耳を立ててる。それで何してるかっていうと、壁越しに話しかけたり、人形を部屋に吊るしてデコったり、茶目っ気もあって素敵。

もちろん、バラエティ豊かな殺人方法も最高だ。

監督のダリオ・アルジェントは

「ピストルで撃たれた経験のある人は少ないと思うけど、タンスの角に足をぶつけたり、熱いシャワーを浴びて『アツゥイ!』と飛び出たりする経験は誰にでもあるよね。この映画では、そんな、誰もが実感できる恐怖を見せるよう心がけたんだ」

と語っている。

もう、心から同意するし、その意図はこの映画の演出と完全にシンクロしている。

昨今のホラー映画の殺人鬼に比べてアクションがゆっくり(「悪魔のいけにえ」とタメを張るスローライフ感)なんだけど、殺人鬼の行動の一つ一つが重いというか人間味あふれてるんだよね。

その代わりといってはなんだが、観客の心拍数を上げるために、高らかに鳴り響くのが、イタリアのバンド・ゴブリンによるメインテーマ曲。ワイドショーの再現フィルムみたいに気分が盛り上がる。今後、警察やヤクザに追いかけられる時は、心のなかでこのテーマ曲が鳴り響くと思う。

さらにさらに、殺人鬼の襲来を受けて部屋で警戒する超能力研究家のところに、唐突に迫ってくるアレ!!! 観てる最中、思わず変な声が出てしまい、あまりの不気味さにもう一回観直してしまった。俺的には「貞子」に匹敵する、脳裏に刻み込まれる名シーンでした。

一昨日みた「ループ」に「必ず二度観たくなる」というアオリがついていたが、そのアオリは、この映画のためにこそあると思う。どのシーンも絵画のように美しい(下の小ネタ参照)。加えて、前半で提示されている「消えた絵画の謎」の伏線に関しては、誰もがアッと驚いて、確実に二度見したくなるに違いない。

そんな、もう一回、鑑賞したくなった方のために、いくつか小ネタを調べたので書いときます(注:アマプラでは8月15日までの配信だそうです)。

・ローマが舞台の設定だけど、実際の撮影はトリノ。頻繁に出てくる広場も後半の呪われた屋敷もトリノに実在。

・同じダリオ・アルジェント監督の「ジャーロ」(2009)で同じアーケードを歩いてるシーンがあるらしい。

・米国人画家エドワード・ホッパーの絵画「オートマット」へのオマージュが47:15あたりに。広場のレストランも同画家の「ナイト・ホークス」へのオマージュ。

・途中でてくる背の高い女装男子は、実際は女性が演じてる。

・小ネタじゃないけど、マークを演じたデヴィッド・ヘミングス、「バーバレラ」で、ジェーン・フォンダと「手のひらセックス」してるレジスタンスの男だった。「バーバレラ」俺の大好きな映画なので、他にもこんな凄い映画に出てて、ちょっと嬉しくなった。

などなど。

こんなに美しく、思わせぶりなホラー映画は観たことがない。妙なラブコメシーンが唐突に入ったり(注:126分の「サスペリア PART2 完全版」バージョンのみ)、足元でトカゲが虐待されていたり、めくるめく展開を楽しむホラー映画の金字塔。

最後に、殺人犯の濡れ衣を着せられたマーク。

確かに殺人は犯してないんだけど、事件解決のために犯罪を犯しまくってるよね!

呪われた屋敷には不法侵入して壁をブチ壊すわ、図書館の本のページは破るわ(それ、絶対やっちゃダメ!)、資料館に入るために正面から堂々とハンマーでドアをぶち破って侵入するわ……マーク、お前もたいがい、サイコパスだよ! って思いました。
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