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さくらのmoonのネタバレレビュー・内容・結末

さくら(2020年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

【一部追記 編集しました 11.20】


美貴が好きだったのは…兄の一だったのだ!と分かった時、初めて美貴が、手紙を隠した動機が分かった。だから、一が、不自由な身となった時、自分から一が離れる事がないと思ったから嬉しそうだったのか……怖い…。けれど、一の容姿なんて美貴はどうでも良かったのかな…一の存在そのもの 心を愛してたのか…

でも!一の手紙を待つ心情を考えると美貴の行為は絶対許せないと思った。もし、手紙が届いていたら あんな事にはなっていなかった。一が時計の電池を買いに行きたかったのは、止まってしまっている自分と矢嶋の時(関係)を 一刻も早く進めたい、動かしたいという気持ちの現れではないだろうか?もし、矢嶋とあの時まで繋がっていたら 気分転換なんて要らなかっただろうし…もしかして、矢嶋の事を考えていて…タクシーの暴走に気付くのが遅かったのかもしれない…
結局、一は優子の気持ちも知らずに失意のまま 命を断ってしまう。美貴のした事は罪深い。

兄の真剣な想いを知ってた薫が、美貴を殴ったが、美貴も辛かった。絶対に叶う事のない相手に恋してしまった…。

美貴は手紙を暗唱してた。
美貴は矢嶋の手紙に一への想いを同化させていたのだろう!何回も何回も読んで…

美貴は 一への 隠し切れない溢れそうな恋心を薫に知って欲しくて、ランドセル(手紙)を見せたのだと思う。手紙を暗唱して(原作では数時間も暗唱したとある!)兄の字を真似て嘘の手紙を書いた事も告白した…それ程に兄を好きだったと…!


薫が一の弱音に腹を立てたのは…兄に元のような諦めず強い存在に立ち直って欲しかったから…憧れてた兄だから出来るはずと信じたかったから…そして…家族の愛を信じて欲しかったから…!
でも…一はgive upしてしまった…。家族は ある意味 一に裏切りに近い感情を抱いたのかもしれないと思った。自分達を信じて貰えなかったという…失望と喪失感の中で一の事をどう捉えたらいいのか迷っていたのかもしれない…。
だから、さくらを大切に思う事でひとつになった車の中で、美貴が「お兄ちゃんを好き」だと言い
「お兄ちゃんは死んでしまったけど…皆んな思うやろ?生まれて来てくれて ありがとうって…」という言葉にやっと気持ちの整理がついたのだろう。
一が、生まれて来た意味はあった。一は一家の誇りだったと。
薫は一のまぼろしに「兄ちゃん違うよ!打ち返せないボールなんてないよ」と言う…。僕達はこれからも諦めずにずっと生きて行くよ。と…

う〜ン…なんか釈然としない。あの薫の言葉。生きる事を諦めた一に対して ムチ打ってるのか?「憎んだ」とも言っていたし…



この映画には?と思う事が、たくさんあった。
先ず「フェラーリ」の存在。必要でしたか?その後 何か意味があるのかと思ったのに…特になかった。幼い美貴を演じた子の目が素晴らしくて惹き込まれた!けど…。一の惨めな気持ちを喩えるだけの存在なら別に他の表現でも良かったのに…。

サキコさん。これは、如何に母が父を愛しているかを描くのに必要だったし、父がオネエ?(トランスジェンダー?)になった同級生に対し偏見を持たない、それどころか頼りにされる存在だったということを表していた。サキコは一の相談相手にもなり、葬式で美貴を気遣い、父の代わり?に長谷川家を見守っていた…。この役の加藤雅也さん 本当に素晴らしい!とても自然にオネエだったし、抱擁力も優しさもサキコそのもの。
ただ、サキコの「親に嘘をつく時は愛のある嘘をつきなさい」という言葉。美貴だけが その言葉に共感?していたようだったけど…この言葉 回収されましたか?

薫の独白で美貴の誕生の日の両親を描くシーン。その場に居ない薫が何処で知ったのか?母から聞かされたのかもしれない…が、赤ちゃんが、産まれる時の表現を母が「スロン」と表現した事に大いに賛同していた(出産経験ある私は良く分かりますよ!)のは、男の独身である薫が言うのは おかしいと思う。母の出産に立ち会える訳もないし…?さくらも 子を産んだ様子もないのに。

一に手紙が来なくなって元気がないと言ってたシーンの後に 美貴がポストの郵便物を見てて矢島からの手紙が来てない事を知って、一が さくらを散歩しに行くシーンで薫の独白で「毎日のように来ていた手紙や電話がぱったり来なくなった」とあるが?あれ?少し前のシーンでなかなか手紙が来ないと言っていたのに、あの後 また手紙や電話あったの?と…どういう事?


薫の童貞喪失シーン。これは まぁ兄の影響もあり、男子高校生のあるある?なのかもしれないけど…あんなに何回も描く必要有りました?結局 薫の人生に影響あったとは思えなかったし…もし意味が有るなら
愛=Sexは有るが、Sex=愛には必ずしもならないという事を知ったという事か…


一と優子の別れのシーンで薫が兄達の真剣な気持ちに息が詰まる思いだったと語るけど…それ程 兄達の愛の深さを感じるシーンが描かれてないので 薫の口から聞かされても「へ?」と肩透かしを食ってしまった…。薫のLoveシーンを削っても描くべきだったのではないでしょうか?


一が死んだ後 思い出の品を燃やしていたけど…なんで?と思った。もし愛しい子の物だったら私なら焼かないし、捨てない!何故、母は一の思い出を焼いてしまうのか?もう新しい思い出は生まれないのだからこそ遺品を遺して置きたいのが親の心情なのに…?もう思い出したくないくらい傷ついてしまったからなのか…家族の愛を信じて貰えず先立った息子への怒り?だったのか?…


何故父はランドセルを背負って家出してしまったのか?ラストの車の中で「美貴 あのランドセルは棄てたぞ」と言うシーンで、一亡き後、父は美貴の一への気持ちを知ってしまい、それに気づかなかった自分への情けなさや一を傷つけた美貴への怒り?そして何より まだ20歳の息子を救えなかった事に対する居た堪れなさに家出したのかな?と思った。でも、美貴にそう言う事で美貴を赦し、美貴を丸ごと受け入れ愛してると言いたかったのだと思った。


矢嶋からの手紙や電話があったという事は一からも電話出来たはず?なのに意思疎通が出来なかったのは…もしかして矢嶋の家には家電(固定電話)がなかったのか?1997年頃の話だから 有り得ないけど…電話は優子からの公衆電話でしか繋がらなかったのか?その辺りが、不思議だった。う〜ン??


疑問はまだ有りますが、他にもいろいろ書きたい事があるのでこのくらいにして(笑)


小松版美貴の最初の登場シーン 美貴は中学二年生!!なんだけど…だからか、ずっと何故かショートパンツ姿でいる。その為、小松さんのスラリと伸びた美脚が、艶めかしくて…ラストシーンでさえ まだ17歳?…色っぽ過ぎる。でも…美貴が出来るのは彼女しかいないと思えた。兄を慕う異常な心理状態や 自慰シーンや 悲しすぎて笑顔のような表情になってしまう芝居など、監督さんも仰ったけど、小松さん天才!だと思いました!そして 映画を観た方は皆感じていると思いますが、この映画は美貴が真の主人公でしたね!


初日に甲府の映画館(TOHOシネマズ)で矢崎監督の舞台挨拶を見て来て、その話の中で印象的だったのは

「愛が動機なら 何をやっても良いというテーマがいつも僕の中にある」

という言葉だった。美貴のした事を指すのだろうか?…

いやいや 私は共感しかねるが。

この映画にはサキコの他にカオルという同性愛者が登場する。彼女は美貴を卒業式の壇上で自分を否定しなかった素敵な人間で「好き」だと公言する。美貴の偏見の無さは長谷川の両親の教育の賜物だと思った。
この物語の時代は まだLGBTQという言葉の概念もアヤフヤで偏見が強い頃だった。今もさして変わらないかもしれないけど…
教師らを倒したり突き飛ばすのは どうかと思うが、カオルの言葉は立派だと思った。
カオルも全く偏見のない人間だったから美貴の兄である一がどんな姿でも普通に接していた。だから、一も少し前を向けて「暖かくなったら散歩に行く」と言えたのだろう。

この映画は たくさんのテーマが詰まった難しい映画だと思う。様々な愛やSexや普通に生きる事の難しさなど…

役者の皆さんは それぞれ素敵な芝居で時に笑いを誘い、時に泣かされた。
北村匠海さんの飄々とした いかにも弟な感じが上手く 美貴の兄を思う気持ちを察しながらも 一の優子への愛の強さを知る薫の複雑な思いから流れる涙と妹を殴る芝居に薫の辛さをヒシヒシと感じた…。

吉沢亮さんは人気者で 強く優しい兄という薫のイメージから…事故で半身の自由を失い顔まで半分損傷してしまうという難しく、辛い役だったが、一が、壊れて行く様を繊細に演じていた。泣きながら「打たれへん…」という姿は本当に痛々しく 合わせた手の表情が一の心細さを感じさせた。
そして…死にゆくのに 明るく さくらと出掛け、自分の首に(さくらの?)鎖を巻く姿が、なんとも切なく、怖くもあった……耐え難い苦しさから解放されるという気持ちになるのだとしたら…リアルなのかもしれない…。



両親を演じたお二人も見事だった!特に寺島しのぶさんは若い頃の演技は本当に若さを感じたし、あのお母さんなら夫との性もあっけらかんと子供達に話して聞かせるだろうなと納得できるキャラを好演していたと思う。
永瀬さんは薫が、言ってた通りの長谷川家を支えていたのは 秋の日差しの光のような父だったと言うセリフの通りの妻や家族思いの人物を好演していた。

小松さん、加藤さんは前述の通り!
少年期の二人の子役さんが良く似てて本当に兄弟のようだった。




でも…評価するのがとても難しい。

私が共感出来たのは…一くらいかな。

初日に時間とお金をかけて甲府まで行ったので3回見てみたが、一に対しての哀れで複雑な想いが、一番残る。長谷川家の人々の心にずっと住み続けるであろうけど、辛い。
薫が言うように一はいつかボールを打ち返せたのかな…生きていれば。



長々と取り留めもないレビューを読んで下さりありがとうございます。
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